順風満帆のはずだった…「孫を頼む」息子の悲痛な叫び
シニアマンションでの生活が丸1年を迎えた頃、夫婦の穏やかな日々に、突然嵐が吹き荒れます。あれほど頻繁に顔を見せていた雄大さんの訪問が、次第に途絶えがちになったのです。たまにかかってくる電話の声にも、以前のような張りがありませんでした。
そして、ある日の日曜日、約束もなく、まだ6歳になったばかりの孫の手を引いてやってきた雄大さんは、別人のようにやつれていました。良子さんが「OOちゃん、いらっしゃい」と孫を迎え入れると、雄大さんはリビングのソファに深く腰掛け、嗚咽を漏らしながら、信じられない事実を告げたのです。
「父さん、母さん…ごめん。XX(妻の名前)が出ていってしまって……」
仕事に没頭するあまり家庭を顧みなかったこと、価値観のすれ違いが積み重なったこと。理由は、決して珍しくないものでした。親権は雄大さんが持つことを条件に、離婚の申し入れを承諾したといいます。
しかし、問題はそこからです。プレイングマネージャとして忙しくしているなか、仕事と子育てを両立させることは至難の業。息子(孫)は、朝7時に保育園に預け入れ、延長保育を利用し、迎えに行くのは20時。その時点で仕事は終わっておらず、子どもが寝てから再び家で仕事に向かう――そんな日々は、すぐに限界を迎えたのでした。
厚生労働省『令和3年度全国ひとり親世帯等調査』によると、父子世帯数は約14.9万世帯。その88.1%が修就業者、さらにその7割が正社員・正規職員として働いています。単純計算、9万人のシングルファーザーが会社等で奮闘している計算です。平均収入は496万円(就労収入のみ)と、シングルマザーのの2.1倍と経済的には余裕があるかもしれません。しかし仕事と子育ての両立がいかに難しいかは、誰もが知るところ。
「ごめん、一緒に住んでくれないか」
可愛い孫の顔と、涙ながらに頭を下げる息子の姿。断ることができるはずがありません。こうして穏やかだったはずの老後は一転、親子3世代の忙しい毎日へと急展開。
「まさかこの年になって、慌ただしい日々を送ることになるなんて、夢にもおもっていませんでした」
[参考資料]
厚生労働省『令和3年度全国ひとり親世帯等調査』