管理職志向の低下や長期就業を望まない声の広がりは、男女を問わず、世代を越えて進行していて、特に若年層で長期的な働き方や管理職を選択肢としない傾向が強まっていることや、管理職よりも専門性の高い働き方を志向する動きもみられました。そこで本稿では、ニッセイ基礎研究所の村松容子氏が、「被用者の働き方と健康に関する調査」の結果をもとに、性別および年齢別のキャリア志向の違いや、変化について詳しく解説します。
会社員のキャリアビジョン~男女別・年齢別の比較からみるキャリア志向の変化と管理職登用 (写真はイメージです/PIXTA)

キャリアビジョンの変化

性・年齢群の特徴

長期的な働き方としてどのようなコースが望ましいと考えているか尋ねた結果を、性・年齢群別・調査年別に示したものが図表1である。

 

出所:「被用者の働き方と健康に関する調査」各年
[図表1]長期的な働き方として望ましいと考えるコース(2004年3月調査/2019年3月調査) 出所:「被用者の働き方と健康に関する調査」各年

 

まず、2024年調査の結果を、男性について年齢群別にみると、「(1)一つの企業に長く勤め、だんだん管理的地位になっていくコース」「(3)一つの企業に長く勤め、ある仕事の専門家になるコース」は高年齢ほど高く、高年齢ほど「1つの企業((1)+(3))」に勤め続けることを望ましいと考えている。反対に、若年齢ほど高いのが「(6)長期的な働き方は希望していない」だった。

 

「管理的地位になっていく((1)+(2))」と、「ある仕事の専門家となっていく((3)+(4))」を比べると、管理的地位になっていくことが望ましいと考えている割合が44歳以下でやや高い。

 

続いて、女性について年齢別にみると、若年齢ほど「(6)長期的な働き方は希望していない」が高いのは男性と同じ傾向だった。特に34歳以下女性においては、「(6)長期的な働き方は希望していない」と回答した割合が、35歳以上の女性や男性と比べて突出して高かった。「1つの企業((1)+(3))」に勤め続ける意向は、35歳以上で34歳以下と比べて高かったが、35歳以上でも男性で最も低かった34歳以下と同水準に留まった。女性は、「1つの企業((1)+(3))」に勤め続けるとしても、管理的地位となっていくことより、ある仕事の専門家となっていくことを望ましいと考えていた。

 

5年間の変化

2019年調査(5年前)の結果も、男女とも年齢における特徴は2024年調査と同様だった。男性、特に高年齢男性ほど「1つの企業((1)+(3))」に勤め続けることや「管理的地位になっていく((1)+(2))」は高く、女性は、管理的地位となっていくことより、ある仕事の専門家となっていくことを望ましいと考えていた。また、男女とも若年ほど「(6)長期的な働き方は希望していない」が高かった。

 

2019年調査から2024年調査への変化に注目すると、2019年調査は、「(6)長期的な働き方は希望していない」が、男女ともすべての年齢群で2024年調査と比べて低く、この5年間で「(6)長期的な働き方は希望していない」があらゆる層で増加していた。反対に、この5年間で男性は「(1)一つの企業に長く勤め、だんだん管理的地位になっていくコース」が低下していた。その結果、2019年調査では、男性は全年齢群で「管理的地位(計:(1)+(2))」が「ある仕事の専門家(計:(3)+(4))」より高かったが、2024年調査では両者は同水準となり、男性も女性と同様に「ある仕事の専門家(計:(3)+(4))」を望ましいと考えるようになっていた。男性で、「1つの企業((1)+(3))」に勤め続けることが低下していたが、「いくつかの企業((2)+(4))」が上昇しているわけではないことから長期にわたって働くことを希望する人々の多くは、転職を通じてスキルを高めていくことよりも、引き続き1つの企業で働き続ける姿を思い描いているようだ。

 

女性は、2019年には「管理的地位((1)+(2))」が低年齢ほど高く、若年齢者で管理的地位への関心が高かったと思われたが、2024年には若年齢も低下していた。しかし、35歳以上で「(1)一つの企業に長く勤め、だんだん管理的地位になっていくコース」が男性ほど顕著には低下していなかった。

 

34歳以下女性の「(6)長期的な働き方は希望していない」は、2019年調査でも35歳以上女性や男性と比べて高かったが、2024年調査ほど突出していなかった。そこで、「(6)長期的な働き方は希望していない」のみ、毎年の性別・年齢群別推移をみると、いずれも5年間にわたって、それぞれ継続的に上昇する傾向があった(図表2)。

 

出所:「被用者の働き方と健康に関する調査」各年
[図表2]「長期的な働き方は希望していない」の推移 出所:「被用者の働き方と健康に関する調査」各年

 

2019年からの上昇幅は、34歳以下女性が16.3ポイントで最も高く、34歳以下の女性は他層と比べて、「(6)長期的な働き方は希望していない」が上昇し続けているようだ。