(写真はイメージです/PIXTA)
おわりに
キャリアビジョンの変化
以上のとおり、本稿では、長期的な働き方としてどのようなコースが望ましいと考えているか、2024年の調査結果の性・年齢群別結果を中心に紹介した。
1つの企業に勤め続け、管理的地位になっていく働き方は、男性、特に高年齢男性ほど望ましいと考えていたが、いずれも、高年齢男性を含む男性全体で低下傾向にあった。反対に、ある仕事の専門家となることを望ましいと考える割合は上昇傾向にあり、2024年には管理的地位になっていくことと同水準まで上昇していた。
女性については、長期的に一社に勤め続けることや、管理職などの管理的地位を目指すことに対する志向が、男性ほど高くない。2019年調査では、若年層ほど管理職志向が高かったことと、2024年調査において35歳以上の女性ではその傾向が男性ほどは下がらないことから、女性活躍推進の取り組みが一定の効果を上げている可能性が考えられた。
しかし2024年調査では、34歳以下の女性において管理職志向の低下がみられた。この層では、長期的な働き方を望まない割合も他層と比べて高まっており、働き方に対する価値観が変化していると考えられる。この年代は、結婚や出産、育児といったライフイベントの可能性を多く持つ一方で、キャリアにも期待がかかる時期にある。家庭内での役割分担の見直しが進まないなかで、両立を強く意識させられる状況が影響しているのかもしれない。
また、男女共通の変化として、すべての年代で「長く働くこと」そのものへの志向が弱まりつつある。管理職よりも専門性を深める方向に価値を置く傾向も男女に共通してみられ、キャリア観が「一社での昇進」から「スキルの蓄積と市場価値の向上」へと移行しつつある様子がうかがえる。
企業施策への示唆
企業における多様性推進の視点でみると、女性の管理職や役員への登用は、女性労働者自身の待遇面での改善や働き方の選択肢を広げる役割のほか、女性活躍をめぐる評価やダイバーシティの推進によって経営の多様性を高める役割がある。一般に、経営層に携わるには、ある程度の期間にわたって所属していたり、一定のマネジメント経験がある方が、社内において納得感があると思われるが、最近では、管理職という役職は「組織の意思決定層への通過点」である一方で、「現場の負担が集中する役職」にもなっており、負担が指摘されている5。負担が大きいことや、負担が大きいことで、管理職の役割が担えないことが、管理職を敬遠する要因となっているのであれば、管理職を取り巻く職場環境や役割の再構築が必要となるだろう。
5 坂爪洋美(2020年11月25日)「管理職の役割の変化とその課題──文献レビューによる検討
(https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2020/12/pdf/004-018.pdf)日本労働研究雑誌 2020年12月号(No.725)(2025年6月12日アクセス)
また、本稿で見たとおり、男女問わず、仕事面でのスキル向上への関心は高まっている。経営層の多様化を目指すことに立ち返れば、「管理職を経て経営に携わる」というキャリアコースだけでなく、専門性や実務経験を生かして経営に関与する道を整備することも考え得る。これにより、女性や専門職など多様なバックグラウンドを持つ人材が意思決定に参加できるようになり、組織のガバナンス強化にもつながるのではないだろうか。