生成AIがビジネスや生活に浸透するなか、その開発・利用コストを劇的に下げる可能性を秘めたAIモデル「DeepSeek」が注目を集めています。AI技術がより身近になることで、製造業におけるヒト型ロボットの導入など、これまで想像の域を出なかった応用が現実味を帯びてきました。本稿では、ニッセイ基礎研究所の原田哲志氏が、AIの進化がもたらす社会の変化について詳しく解説します。
DeepSeekに見るAIの未来 …近年のAI進化の背景とは (写真はイメージです/PIXTA)

3―AIモデルの非連続な進化

このように、DeepSeekはモデルの改善により性能を大きく向上させた。ただし、こうしたモデルの改善は過去にも起こってきたものである。AIに関連する代表的なモデルの革新としては「深層学習」や「Transformer」が挙げられる。
深層学習は簡単に言うと、入力層と出力層の間に隠れ層をはさみ、多層構造としたモデルだ。深層学習により、複雑な事象も処理できるようになった。

 

Transformerは入力データの中から重要な部分に焦点を当てる「attention機構」と呼ばれる仕組みを持っている。Transformerの活用により、精度が向上するとともに大量の情報を並列処理することが可能となった。これにより、それまでの生成AIよりも大幅に性能が向上した「ChatGPT」が誕生した。

 

AIの進化は「単純なパラメータ数の増加」だけでなく、「モデルの改善」や「応用領域の拡大」が複合していると言える(図表2)。

 

(資料)筆者作成
[図表2]AIの進化 (資料)筆者作成

 

コンピュータの計算能力の進化やそれに伴う(AIモデルの)パラメータ数の増加は連続的であり、成長予測は比較的行いやすい。

 

一方で、モデルの進化は非連続であり、いつ革新的なモデルが登場するのか予測は難しい。ただし、AIモデルは世界中で様々な改善が研究されており、今後もモデルの革新は起こっていくと考えられる。

4―AIの応用領域の拡大

従来の主要な生成AIモデルの開発は潤沢な資金を持つ米国の巨大テック企業が先行してきた。しかし、DeepSeekのようなオープンソースモデルの開発が進むことは世界中の開発者が自由にAIモデルを共有し進化させていくことにつながる。

 

こうした変化により、AIモデルの基盤自体はコモディティー化(汎用品化)し、代わりにAIモデルをどのように応用し、社会に実装していくかが重要となっていく可能性がある。

 

こうした場合、これまで少数の企業に占められていた生成AIサービスは、様々な事業者や領域での活用が広がっていくと考えられる。

 

特に、従来の自然言語処理(NLP)分野を超え、動画生成やエンボディドAI(身体性を持つAI)といった新領域への応用が進んでおり、AIの活用範囲は爆発的に拡大している。
エンボディドAIとは、物理的な実体を持ち、環境と相互作用しながら学習・判断を行うAIを指す。従来のAIが、チャットや画像生成など主にデジタル空間で動作するのに対し、エンボディドAIはロボットやスマートデバイスで実装され、現実世界で物体を操作したり、人間とコミュニケーションを取ることができる。

 

AIを用いない従来のロボット制御では、ロボットの動きをプログラムで細かく記述する必要があった。しかし、AIを活用したロボット制御では、こうした記述ではなく学習により、人間の曖昧な指示に対しても柔軟な判断と動作が可能となる。

 

エンボディドAIでは、ロボットやスマートデバイスが人間の言語や環境から学び、物理的行動を最適化する仕組みの実装が進んでいる。これにより、小売や物流、介護といった分野でのAI導入が現実味を帯びてきた。

 

また、自動車産業をはじめとした製造業でもヒト型ロボットの導入が計画されている。米国の電気自動車大手テスラは自社工場へのヒト型ロボットの導入を計画している(図表3)*2。 

 

(資料)テスラ
[図表3]テスラ社のヒト型ロボット (資料)テスラ

 

 

*2:日経クロステック「人型ロボットが自動車工場や物流倉庫へ、テスラは25年から数千台配備」、2024年11月21日