相続をめぐる争いは後を絶ちません。特に、家族も知らなかった「隠し子」など予期せぬ相続人の出現は、円満になるはずだった遺産分割を泥沼の争いに変えることもあります。資産2億円を残して亡くなった大倉ミチオさん(仮名)の事例をもとに、相続トラブルを未然に防ぐための重要なポイントをみていきましょう。山﨑裕佳子FPが解説します。※プライバシー保護のため、登場人物の情報を一部変更しています。
あなた、だれ…? 資産2億円・享年79歳の父の葬儀に現れた“自称・娘”に会場パニック→遺産分割協議が「たった30分」で丸く収まったワケ【FPの助言】
遺産分割協議が「たった30分」で終わったワケ
2週間後、改めて遺産分割協議が開かれました。大倉家の家族と自称・娘が緊張の面持ちで対面します。妻は葬儀後、このことばかりを考えてしまい憔悴しきった様子です。
ところが、自称・娘の意外な一言で場の雰囲気が一転します。
自称・娘が「1,000万円だけいただけませんか。病弱な母の生活費が必要なんです」と言ったのです。
家族は驚きを隠せませんが、同席した弁護士は「争うよりも妥協点を探ることが賢明ではないでしょうか」と助言し、解決を促します。実際、遺留分となると遺産の1/12の権利があるため、1,000万円で納得してくれるのであればまだよさそうです。
結果、遺産分割協議は30分で幕を閉じることに。現預金の5,000万円から1,000万円を支払うことで合意しました。残りの遺産は大倉家の3人で分割することになりました。
自称・娘は「これで母を救えます。大倉家の皆さんの家庭を壊すつもりは微塵もありませんでした。でもこれしか方法がなかったんです。すみませんでした」と涙したそうです。
大倉家も訴訟を回避することができ安堵しました。
大倉家の「その後」
思いもよらない結末を迎えた大倉家。隠し子など、家族の知らない相続人の出現は富裕層にとって現実のリスクとなりえます。
ミチオさんの妻をはじめ、大倉家は遺産分割協議が長引くことも覚悟していたそうですが、なんとか2億円の遺産の凍結を免れることができました。
円満相続、スムーズな遺産分割のためには生前に相続人調査をして相続人を確定しておくことが有効です。被相続人の戸籍謄本を取り寄せることで、認知した子の有無や養子縁組の有無など、相続に重要な情報がすべてわかります。家族の死後、突然会ったこともない相続人が出現したとしても、心構えがあれば今回のようなパニックは起こらなかったかもしれません。
問題の複雑化が予見できる場合は、早めに専門家へ相談し助言を仰ぐなど検討しましょう。事前に対策を行えば、紛争を回避、もしくは最小限にすることができそうです。
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表