令和5年度の司法統計によると、家庭裁判所に申し立てられた相続に関する争い件数は13,872件でした。毎日のようにどこかで起きている相続トラブル、決して他人事ではありません。「ウチは仲が良いから大丈夫」「ウチには揉めるようなお金がないから大丈夫」といった家庭ほど、いざその時になると油断は禁物です。90歳で大往生した女性とその子の事例をもとに、相続トラブルが生まれる原因とその対策をみていきましょう。
私のことはいいから…年金月13万円、最期まで子との同居を拒否していた母が逝去→四十九日のあと、遺品整理の場で明らかになった〈母が死ぬまで隠し通した秘密〉
90歳で大往生…「質素倹約」がモットーだった母の生涯
2ヵ月前、老衰のため亡くなった近藤キヨエさん(仮名・90歳)。キヨエさんの夫はすでに15年前に他界しており、子どもは長男・雅之さん(仮名・65歳)を含めて4人います。
父亡きあと、雅之さんは「1人じゃなにかと大変だろうから、一緒に住もう」と同居を申し出ましたが、「私のことはいいから」と断り続け、介護のお世話になることもなく、死ぬまで1人暮らしを貫きました。
キヨエさんを一言で表すなら、一本芯の通った女性。自宅は古い戸建でしたが、毎朝の掃除・洗濯を欠かしたことはありません。子や孫がいつ訪れても、キヨエさんの住まいは気持ちよく整理整頓されていました。
また、「もったいない」が口癖で、常に質素な生活を心がけ、食費や光熱費以外、自分のためにお金を使うことはほとんどありませんでした。
かといって、決してケチというわけではないのです。過度な干渉はしませんが、4人の子どもたちのことを常に気にかけていました。お盆や正月に家族が集まったときには、孫たちの成長を喜び、入学祝いや卒業祝い、お年玉などには惜しまずお金を出してあげていました。
ただ優しいだけの祖母ではなく、悪いことや間違っていることには毅然とした態度で叱ることもあったそうです。子どもたちにとってはそんなキヨエさんが誇りであり、孫たちからも慕われていました。
90歳の大往生でしたが、葬儀の際にはキヨエさんの死を悼み、親戚一同が深い悲しみに包まれました。
四十九日を終えるころ、子どもたちはようやくキヨエさんの思い出話に花を咲かせられるほどに回復。そしてしばらくして、遺品整理のため、4人の子どもたちが実家に集まりました。
もともと整理整頓が行き届いていたキヨエさんの家ですから、片づけはそれほど大変ではなく、預金通帳や家の権利書などの大切な書類も、まとめて1つの箱に保管されていました。