子のない夫婦の遺産の行方は

「うちの息子にも相続権があるはずよ!」

葬儀後、食事会の場で響いた声に、参加者たちは思わず振り返りました。

喪主である故人の妻、房江さん(仮名:70歳)に言い寄っている人物は、故人の弟の妻、良子さん(仮名:59歳)。房江さんと良子さんの夫は兄弟、つまり2人は嫁同士の関係です。

房江さんの夫で、良子さんの夫の兄である正一さん(仮名:77歳)は、半年間の闘病の末、穏やかに旅立ちました。通夜、葬儀がしめやかに行われ、親戚一同安堵したのも束の間、良子さんの一言で食事会の場は、不穏な空気に包まれました。

登場人物の相関図
[参考]登場人物の相関図

正一さんは、親の事業を引き継ぎ金属加工の町工場を営んでいました。ただ、正一さんと房江さんのあいだに子どもがいなかったことから、病床に伏せたタイミングで工場をたたんでいます。

正一さんと房江さんは、自営業ゆえに公的年金への依存度が低く、現役時代から贅沢とは無縁で貯蓄に励んできました。その甲斐もあり、正一さんの死亡時の預金残高は8,000万円ほどあったそうです。

一方、正一さんの弟である卓さんは3年前にすでに他界。故・卓さんと妻の良子さんとのあいだには、息子の勇樹さん(30歳)がいます。

良子さんは、普段親戚付き合いをするなかで、正一さん夫婦にはかなりの資産があると見込んでいました。そこで良子さんは、正一さん・房江さん夫婦に子がないことに目を付け、自分の息子にも正一さんの財産をもらう権利があると主張しているのです。

「正一さんには子どもがいないでしょ。だから、弟の卓にも相続権があるのよ。でも卓はもう他界しているから、その相続権を息子が引き継ぐことができるの」と声高に説明します。

それを聞いた勇樹さんは、「母さん、なに言ってるんだ。非常識だぞ」といさめますが、良子さんはまったく意に介しません。

それどころか「だって、法律で認められているのよ。主張してなにが悪いの!?」とヒートアップ。