相続をめぐる争いは後を絶ちません。特に、家族も知らなかった「隠し子」など予期せぬ相続人の出現は、円満になるはずだった遺産分割を泥沼の争いに変えることもあります。資産2億円を残して亡くなった大倉ミチオさん(仮名)の事例をもとに、相続トラブルを未然に防ぐための重要なポイントをみていきましょう。山﨑裕佳子FPが解説します。※プライバシー保護のため、登場人物の情報を一部変更しています。
あなた、だれ…? 資産2億円・享年79歳の父の葬儀に現れた“自称・娘”に会場パニック→遺産分割協議が「たった30分」で丸く収まったワケ【FPの助言】
家族の亀裂と混乱の深まり…現場はカオス状態に
自称・娘の登場に、滞りなく終わるはずだった葬儀は大パニックに。
長男は「新手の詐欺だろ! 警察を呼べ」と叫び、長女は「あの優しかったお父さんがお母さんを裏切るなんて、信じられない」と涙します。妻はというと、「50年近く連れ添った私が、なぜこんな目に……信じていたのに」と茫然自失状態。
一方、自称・娘は「DNA鑑定をしてもらっても一向に構いません」と冷静に対応し、相続権を主張します。
ミチオさんの残した遺言書には、隠し子の存在の記載などありません。そして当然、ミチオさんの存命中はそんな素振りは一切見えなかったため、大倉家では、相続人は自分たち3人(妻、2人の子)であると信じて疑う余地などまったくありませんでした。
自称・娘に本当に相続権があるなら訴訟に発展する可能性もあります。そのため、やむなく葬儀後に予定していた遺産分割協議は一旦延期とし、別日に仕切りなおすことにしました。自称・娘には、後日必ず連絡することで了承をもらい、連絡先を交換して帰宅してもらいました。
翌日…ミチオさんの妻は友人の娘に相談
翌日、ミチオさんの妻が弁護士に相談するか迷っていたところ、葬儀会場で現場を目撃していた友人から連絡が。いわく、娘がFP事務所に勤務しており、その事務所では相続にまつわる相談が多いとのことであったため、弁護士への相談事項を整理するためにも、まずは友人の娘に今回の件を相談することにしました。
親が亡くなってからいわゆる「隠し子」が発覚するケースは、富裕層ほど顕著だそうです。遺産分割協議のための相続人調査により「隠し子」や「前妻との子」の存在を初めて知るというケースも稀ではないといいます。
自称・娘が相続権を得るためには、ミチオさんとの親子関係の証明が必要です。「隠し子」は法律上、非嫡出子となるため、親子関係を証明するには、ミチオさんの認知があるかどうかが重要となります。戸籍謄本を取れば認知の有無はわかります。
認知されていれば、非嫡出子である彼女にも大倉家の2人の子どもと同等の相続権が発生します。
たとえば2億円の遺産を法定相続分で分割する場合、まず、妻と子で1/2ずつ分けます。子の分(1/2)を子の人数で分割しますので、子が2人であれば、遺産は1/4(1/2×1/2)となりますが、子が3人になれば1/6(1/2×1/3)となり、取り分が少なくなります。
遺言書に明記されている割合で遺産を分割する場合でも、子には遺留分があるため、たとえ遺言書に隠し子への遺産分割について言及がなくても、認知された子は遺言書に優先して遺留分を主張することができます。
いずれにしても、相続人同士で話をまとめるのは難しいのではないかということで、遺産分割協議の場に弁護士に立ち会ってもらうことにしました。