長年の会社勤めを終え、年金生活に入る定年退職。多くの人が、その後の人生を穏やかに、そして計画的に過ごしたいと願うでしょう。しかし、長年の習慣や環境の変化、そして予期せぬ支出の増加により、思わぬ形で家計が圧迫され、「老後破産」の危機に直面するケースも……。本記事では佐藤さん(仮名)の事例とともに、定年後に陥りやすい家計の落とし穴とその対策について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
〈年金月15万円〉〈定年退職金+貯金で3,000万円〉家でダラダラしていた65歳元サラリーマンがジワジワ“老後破産”に追い込まれたワケ…原因は「ヒマすぎたから」【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

FPの助言

年金受給中の佐藤さんは、生活費の不足を補うため、月に20日、約10万円の収入となるアルバイトを始めました。この収入のおかげで、家計の不足分は解消され、精神的な安心感も得られたといいます。しかし、年齢を重ねるにつれて労働が困難になる可能性も考慮し、今後はより慎重なキャッシュフローシミュレーションを行い、将来を見据えた計画を立てていくことになりました。

 

日本の年金制度にはマクロ経済スライドが適用されており、物価が上昇しても年金額が同等に増えるわけではありません。物価上昇率よりも年金増加率が小さくなるため、実質的な価値が目減りする可能性があります。バブル崩壊以降、日本では低成長が続いたため物価上昇を意識する機会は少なかったですが、現在のように物価が2%程度上昇することは、経済が健全に成長している証ともいえます。そのため、今後の物価変動には常に注意を払う必要があるでしょう。

 

アルバイトを始めた佐藤さんには、ほかにもいい変化がありました。これまでの食費の節約を心がけるようになったことに加え、アルバイトで外出する時間が増えたことで光熱費の節約、また運動不足の解消にもつながったのです。まだ体調面の改善は目にみえていませんが、結果として、月の支出を抑えつつ、年金とアルバイト代で収入が増えたことで、毎月5万円の貯蓄ができるように。これにより、固定資産税や車の維持費といったまとまった出費も問題なく支払えるようになったといいます。家計は大きく改善しています。

 

さらに、将来を見据えて、車の処分も検討し始めました。車を手放し、必要な時だけレンタカーやカーシェアリングを利用することで、さらなる維持費の節約へとつなげていく考えです。

 

佐藤さんのように、状況に応じて柔軟に対応し、具体的な行動を起こすことが、安心して老後を過ごすための鍵となるでしょう。

 

〈参考〉
国土交通省:「令和5年度マンション総合調査 管理組合向け調査の結果」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000058.html#chosa

 

 

吉野 裕一

FP事務所MoneySmith

代表