
夢を打ち砕く「定年後の想定外の出費」という現実
想定していなかった出費はまだまだ続きます。まずは孫関連の出費。スポーツで活躍する孫が全国大会に出場することになり、「遠征費や新しい道具代は、じぃじとばぁばが出してやる!」と見栄を張ってしまいます。息子夫婦は遠慮しますが、「いいんだ、孫のためだから」と半ば強引に10万円、20万円と援助します。しかし、孫は全員で4人(今のところ)。1人だけというわけにはいきません。何かと理由をつけて、不公平感のないように援助していくと――1年間にすると、相当な額です。
さらに人付き合いの出費もバカになりません。長く教員として活躍した山田夫婦。引退しても、教員同士の関係、地域との関係はそのままで、ちょっとした付き合いが積み重なって、出費としてはこれまたかなりの金額に。
「仕事を辞めたあとは、夫婦2人の生活のことだけを考えていた。実際は、想定外の出費がかなり多い」と、肩を落とす山田さん夫婦。月38万円の年金では足りないときもあり、「私たちが全額負担するから海外に行こう!」という夢はとても叶えることはできず。「大き過ぎる夢でした……来世に持ち越しですね」とすっかり意気消沈。
山田さん夫婦の場合、教師という職業柄、想定外の出費がかさんでいる、という部分も大きいでしょう。一方で、定年後の人生設計をしっかり立てていたつもりでも、予期せぬ出費によってその計画が狂ってしまうケースは少なくありません。特に、定年後の生活において考えられる想定外の出費には、いくつかの典型的なパターンがあります。
まず、住宅関連の費用です。長年住んだ持ち家は、築年数が経つにつれて修繕やリフォームが必要になります。外壁塗装や屋根の補修、水回りの改修などは、一度に数十万円から数百万円単位の費用がかかることも珍しくありません。また、マンションであれば修繕積立金が上がる可能性もあります。これらの費用は、計画的に積み立てていないと、家計に大きな打撃を与えます。
次に、医療費や介護費です。高齢になればなるほど、病気のリスクは高まり、医療費がかさむ傾向にあります。持病の悪化や新たな病気の発症、あるいは突然の事故など、予測できない事態が発生する可能性も。さらに、夫婦どちらか、または両親の介護が必要になった場合、その費用は想像以上に高額になることも。車の買い替え、子どもや孫への援助、冠婚葬祭費……あるかもしれないし、ないかもしれない、そんな突発的な費用負担が、老後を圧迫します。
総務省統計局『家計調査報告(家計収支編)』によると、夫婦ともに65歳以上の高齢者無職世帯の平均的な支出は月25万円程度。これはあくまでも平均値であり、想定外の出費が重なると、元教員夫婦という老後安泰が約束されたケースでも、たちまち赤字に転落してしまう可能性は十分に考えられます。
「仕事引退後に、急な出費が重なったので、自分たちのことでお金を使うことにすごく臆病になっています。もう一度、シミュレーションを行って、海外は無理でも、家族全員で国内旅行くらいは叶えたいと思っています。いつまで元気でいられるかもわからないので」
[参考資料]
総務省統計局『家計調査報告(家計収支編)』