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新制度におけるガソリン価格の行方
今回、ガソリン補助金制度が10円の定額補助に変わったことで、ガソリン価格の変動は必然的に大きくなる。
本来、ガソリン価格は主に原油価格と円相場の動きを反映して動く。具体的には、原油安や円高の際には、原油の輸入価格が押し下げられ、ガソリン卸売価格の下落を通じて小売価格に下落圧力が波及する。原油高や円安の際はその逆になる。
しかし、既述の通り、従来の補助金制度は基本的にガソリン価格を一定の目安水準に抑える仕組みであったため、政府が目安水準の変更を行った時期を除き、ガソリン価格の変動はごく小幅に留まっていた(図表2)。それが、今回定額補助に変更されたことで、今後は原油価格と円相場の動きがガソリン価格に直結することになる。
そこで、最近の状況を基に、原油価格(ドバイ原油・ドル建て)とドル円レートの組み合わせごとに、10円の定額補助を反映したガソリン価格を試算したものが図表4(※2)だ。
筆者の中心的な見通しでは、トランプ関税やトランプ政権を巡る不確実性が原油需要の重石となる一方、加盟国の規律回復を目指すOPECプラスはしばらく増産を続けるとみられ(※3)、原油需給が緩んだ状況になることを受けて、今年年末時点のドバイ原油価格は1バレル62ドル(直近29日時点では65ドル台)と見込んでいる。また、米景気の低迷を受けてFRBが段階的な利下げを実施することなどを受けて、年末時点のドル円レートは1ドル140円と予想している。この場合、ガソリン価格は1リットル169円となり、直近26日時点の177.6円から10円弱下落することになる。
ただし、下振れ・上振れリスクも相応にある。
主な下振れリスクとしては、世界経済の失速が挙げられる。トランプ関税を発端に貿易摩擦が拡大し、米国を始めとする世界経済が失速すれば、原油需要の急減によって原油価格は大きく下がるとともに、FRBの急ピッチの利下げによってドル円は大幅な円高になるだろう。仮にドバイ原油が1バレル40ドル、ドル円レートが1ドル130円に下落すると想定すると、ガソリン価格は1リットル145円まで下がることになる。
逆に、主な上振れリスクとしては、地政学リスクに伴う原油供給の減少が挙げられる。今後、米国とイランの核合意を巡る協議が決裂して米・イスラエルとイランとの対立が激化し、原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の通行に支障が出たり、ロシアとウクライナの停戦協議が難航して米国がロシアの原油産業への制裁を大幅に強化したりすれば、原油価格は急騰しかねない。
たとえば、世界銀行が2023年10月の報告書で示した試算では、2003年のイラク戦争並みの供給減シナリオ(2023年の供給量の約3~5%減)では原油価格が初期段階で21~35%上昇、1973年のアラブ諸国による石油禁輸措置並みの供給減シナリオ(2023年の供給量の約6~8%減)では、初期段階で56~75%上昇するとされた(※4)。
仮に、今後ドバイ原油価格が足元から約40%(上記両シナリオの中間程度)上昇し、1バレル90ドルになると仮定すると(ドル円は1ドル140円と想定)、ガソリン価格は1リットル197円となり、過去最高値(186.5円)を大きく上回ることになる。政府はガソリン補助金の拡大を検討せざるを得なくなるだろう。
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(※2)実際には、ガソリン製造・流通段階での費用や利益は動くうえ、卸売価格が小売価格に波及するまでのタイムラグもあるため、数円の誤差は生じ得る(次ページ図表6の試算結果も同様)。
(※3)OPECプラスの増産を巡る状況については、拙稿「原油安に拍車をかけるOPECプラス~トランプ関税の行方に影響も」(Weeklyエコノミスト・レター 2025-05-08)をご参照ください。
(※4)出典は世界銀行 “Commodity Markets Outlook – October 2023”
