2024年通年の訪日外客数は過去最高の3,687万人、消費額は8.1兆円に達しており、今年に入ってからも拡大傾向がつづいています。コロナ禍前の2019年と比べると、外客数が約3割、消費額が約4割増加しています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の久我尚子氏が、インバウンド消費の動向について詳しく解説します。
インバウンド消費の動向――2025年は四半期初の1千万人越え、消費額は10兆円が視野 (写真はイメージです/PIXTA)

おわりに~持続可能なインバウンド成長に向けて、「おもてなし」の再評価と価格戦略の再構築

本稿では、政府統計に基づき、2025年1~3月期までの訪日外国人旅行消費の動向を分析した。

 

消費額は、足元でドル安傾向も見られるものの、依然として円安水準にあることでの割安感や国内の物価上昇の影響で、四半期で初めて1千万人を超え、消費額は引き続き2兆円を超えた。

 

この期間のインバウンド消費額は引き続き2兆円を超え、四半期としては初めて訪日外客数が1,000万人を突破した。背景には、依然として続く円安水準による割安感や、日本国内の物価上昇が相対的に抑制されていることなどがある。なお、足元ではドル安の兆しも見られるものの、全体としては円安基調が続いている。

 

また、2025年1-3月期の訪日外国人消費額の増加率(対前年+28.4%)は、外客数の増加(同+23.1%)と比べて大きく、1人当たりの消費額(22万1,285円)が前年より約1万円増加した。消費額の内訳では、「買い物代(モノ消費)」が全体の3割、サービス関連(「宿泊費」「飲食費」「交通費」「娯楽等サービス費」)が7割を占めた。

 

今期の特徴として注目されるのは、前期に続いて訪日外客数の首位が韓国であった点である。かつて圧倒的な存在感を示していた中国からの旅行客は回復基調を強めているものの、現時点では韓国人観光客の伸びがそれを上回り、訪日客全体の約4分の1を占めている。ただし、韓国人の平均宿泊日数は約4日と短いため、平均9日の全体と比べて消費額は相対的には少ない。一方、中国人観光客は宿泊日数が長く、購買意欲も強いことから、消費額における存在感が依然として大きい。特に「買い物代」が内訳の4割を占めて、他国と比べて突出している。

 

引き続き、インバウンド需要は拡大傾向にある中で、人手不足や混雑の緩和といった課題への対応がより重要になっている。特に、デジタル技術の活用による業務の効率化とともに、サービスの質やコストに見合った価格設定の見直しが求められる。これにより、システム整備や人材確保のために必要な安定的な原資の確保が可能とある。

 

インバウンド対応においては、多言語対応や宗教的配慮、訪日客専属のガイドサービスなど、追加的な対応が求められる場面も多い。これらに要するコストについては、合理的な根拠に基づき、適切な価格転嫁が認められるべきである。日本では「おもてなし」が文化的な美徳として、しばしば無償で提供される傾向があるが、近年は原材料費や光熱費、人件費の高騰により、こうしたサービスが企業収益を圧迫している現状がある。消費者からは高品質なサービスとして評価されているものの、「おもてなし」を前提とした価格体系については、他国のインバウンド市場の動向を参考にしながら、グローバルな視点で再検討すべき時期に来ているだろう。

 

今期と同程度の成長が続けば、2025年のインバウンド市場は10兆円規模に達する見通しであり、日本経済への波及効果への期待も高まる。一方で、こうした需要の受け皿となる供給体制には、更なる工夫と改革が求められる。持続可能な観光の実現には、単なる量的拡大ではなく、単価の引き上げによる質的な成長への転換が必要であり、そのためには適切な価格転嫁に加えて、日本独自の付加価値の創出が不可欠である。例えば、文化芸術や地域文化の伝承を核としたサービスの提供は、競争力の強化に大きく寄与するだろう。

 

こうした付加価値の高いサービスを訪日客向けに充実させることは、結果として日本人の消費拡大にもつながり、国内市場の活性化にも貢献する。インバウンドと国内消費の相乗効果を促進しながら、観光・サービス産業全体が持続可能な成長を実現していくことが求められる。