2024年通年の訪日外客数は過去最高の3,687万人、消費額は8.1兆円に達しており、今年に入ってからも拡大傾向がつづいています。コロナ禍前の2019年と比べると、外客数が約3割、消費額が約4割増加しています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の久我尚子氏が、インバウンド消費の動向について詳しく解説します。
インバウンド消費の動向――2025年は四半期初の1千万人越え、消費額は10兆円が視野 (写真はイメージです/PIXTA)

訪日外国人旅行消費額の内訳~サービス消費7割・モノ消費3割、欧米諸国はサービス消費が8割

全体の状況~円安や中国人観光客回復でモノ消費3割、夜間のサービス充実等で消費額拡大の余地も

次に、訪日外国人旅行消費額の内訳を見ると、中国人による「爆買い」が流行語となった2015年頃には「買い物代」の割合が約4割を超えており、消費全体の中で突出して高かった(図表7)。しかしその後、中国政府による関税引き上げに加え、サービス消費志向の強い欧米からの訪日客の増加を背景に、「宿泊費」や「飲食費」、「娯楽等サービス費」といったサービス消費の割合が高まっている。一方で、直近では円安による割安感に加え、訪日中国人観光客の回復が進んだことで、「買い物代」の割合は再びやや上昇傾向を示している。

 

なお、インバウンド消費額が世界最大である米国においては、「買い物代」の割合は約2割にとどまり、大半が宿泊・飲食・娯楽等を中心としたサービス消費で構成されている(国土交通省「観光白書(令和6年版」)。なかでも「娯楽等サービス費」は13.5%を占め、日本の約3倍にのぼる。この背景には、特にナイトタイムエコノミー(夜間消費)に関連するサービスの不足が指摘されている2。夜間消費の拡大は訪日客1人当たりの消費額をさらに押し上げるうえで、今後の潜在的な成長余地となりうる。
2 久我尚子「インバウンドで考えるナイトタイムエコノミー-日本独自の夜間コンテンツと街づくりの必要性?」、ニッセイ基礎研究所、研究員の眼(2024/7/24)や観光庁「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」など。

 

(注)2018年から「娯楽サービス費」に「温泉・温浴施設・エステ・リラクゼーション」「マッサージ・医療費」等の費目が追加、1%未満は数字表記省略。 (資料)観光庁「インバウンド消費動向調査」より作成
[図表7]訪日外国人旅行消費額の費目別構成比の推移 (注)2018年から「娯楽サービス費」に「温泉・温浴施設・エステ・リラクゼーション」「マッサージ・医療費」等の費目が追加、1%未満は数字表記省略。
(資料)観光庁「インバウンド消費動向調査」より作成

 

国籍・地域による特徴~モノ消費は中国が最多で東南アジアで、サービス消費は欧米諸国で多い

2025年1-3月期の訪日外国人旅行消費額の内訳を国籍・地域に見ると、アジア諸国ではモノ消費が多く、欧米諸国ではコト消費が多い傾向が見られ、この傾向は過去も同様である(図表8)。

 

なお、「買い物代」、すなわちモノ消費の割合が圧倒的に高いのは中国(40.8%)で、唯一4割を超えて、全体平均を約1割上回っている(図表8)。次いで台湾〈33.2%〉、マレーシア(32.8%)、フィリピン(32.5%)、香港(32.3%)、ロシア(32.3%)、タイ(31.6%)と続き、これらの国・地域はいずれも3割を超えて全体平均を上回り、「買い物代」の割合が他の費目を上回って最も高い割合を占めている。

 

一方、サービス消費(「宿泊費」「飲食費」「交通費」「娯楽サービス費」)の割合が最も高いのはオーストラリア(85.2%)で、次いでスペイン(83.5%)、フランス(82.5%)、インドネシア(82.0%)、ドイツ(81.7%)が続いている。なお、サービス消費の内訳では、「宿泊費」の割合が特に高いのは英国およびフランス(どちらも42.2%)、「飲食費」はベトナム(30.7%)、「交通費」はインドネシア(15.8%)、「娯楽サービス費」はオーストラリア(9.5%)で多い傾向がある。

 

(注)上から「買い物代」の割合が高い国籍・地域順。2018年から「娯楽サービス費」に「温泉・温浴施設・エステ・リラクゼーション」「マッサージ・医療費」等の費目が追加。1%未満は数字表記省略 (資料)観光庁「インバウンド消費動向調査」より作成
[図表8]国籍・地域別旅行消費額の費目別構成比(2025年1-3月期) (注)上から「買い物代」の割合が高い国籍・地域順。2018年から「娯楽サービス費」に「温泉・温浴施設・エステ・リラクゼーション」「マッサージ・医療費」等の費目が追加。1%未満は数字表記省略
(資料)観光庁「インバウンド消費動向調査」より作成