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相続などをきっかけに、当事者の意思によらず親族間で不動産を共有することになるケースは多くあります。そうした場合にそのまま放置してしまうと、親族間で関係が悪化した時に処分や適切な管理ができなくなってしまうといったリスクがあるため、親族間で話し合って共有名義を単独名義にしたり、相続人全員の同意をもって売却したりするなど、先々のリスクを見据えて早目の対応を行うことが最も重要です。本コラムでは、不動産の共有に関する基本的な知識や、共有不動産を売却する方法・流れ、売却時の注意点を詳しく解説します。

共有名義の不動産を売却する方法

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共有名義の不動産を売却する際には、どの方法を選ぶかによって必要な手続きや得られる金額、かかる手間が大きく異なります。

 

事前に各方法のメリット・デメリットを理解し、最適な選択肢を見極めるようにしましょう。

 

自分の持分だけ売却する(持分売却)

共有名義の不動産において、自分の持分については、他の共有者の同意を得なくても第三者に売却することがルール上は可能です。ただし実務上、持分の売却はきわめて困難であり、基本的にあまり現実的ではありません。

 

前述した通り、共有名義の不動産は自由に利用・処分することができず、トラブルに発展するリスクを抱えているため、市場での需要が低くなる傾向にあります。そのため、買い手が現れない可能性が高く、現れたとしても思うような価格で売却できないことがほとんどです。

 

共有者同士で持分を売買する(持分売買)

共有名義の不動産を売却する際に、共有者同士で話し合い、他の共有者に自分の持分を買い取ってもらう方法があります。例えばある不動産を2人で共有しており、それぞれの持分が50%ずつである場合に、いずれか一方の持分を売却して単独名義とするような場合です。

 

共有者同士で行う持分売買は身近な相手同士での話し合いとなることが多く、比較的現実的でスムーズな売却方法とされています。ただし、売却にあたっては価格の交渉が必要となるため、交渉をきっかけに関係性が悪化してしまうこともあります。

 

また、もともと共有者との人間関係が悪化していた場合や、相手方に金銭的な余裕がない場合には、持分売買が成立しない可能性があります。

 

共有者全員で不動産を売却する

共有名義の不動産をもっとも高値で売却できる可能性があるのは、共有者全員の合意を得て、不動産全体を一括で売却することです。そうすることで、その不動産は単独名義の商品として市場に展開されることとなり、一般的に、持分を売却する場合と比べて市場からの評価額が高くなり、買い手を見つけやすくなるほか、自分の持分のみを売却する場合と比べ取引価格も高くなります。

 

ただし不動産全体を一括で売却するには、共有者全員の同意が必要になります。1つの不動産を複数人で所有している場合には、全ての共有者が同じタイミングで売却に同意することが必要なため、意見の食い違いや資産状況、生活背景の違いによって、話がまとまりにくいケースもあります。

 

分筆して売却する(土地の場合)

土地が共有名義になっている場合、条件が整えば土地の分筆(ぶんぴつ)を行い、それぞれの持分を単独名義に変更し、個別に売却するという方法もあります。分筆とは、1つの土地を物理的に複数の区画に分け、それぞれを独立した不動産として扱う手続きのことを指します。

 

分筆ができれば、元々共有者が存在した土地が自分の土地となり、共有による制限から解放され自由に売却できるようになります。

 

ただし分筆を行うためには、その土地の面積や形状が分筆に適していることが前提となります。また、測量や土地の査定、登記などの手続きが必要となるほか、共有者の過半数の同意が必要です。

 

また、分筆後の各土地の面積がその周辺に流通している不動産と比べて小さくなり過ぎてしまう場合などは、その土地に対する市場からの需要が見込めないケースもあるため、注意が必要です。

共有持分を売却する場合の流れ

ここまで解説したように、共有名義の不動産を売却する際には、通常の不動産取引に加えて異なるポイントにも注意しなければなりません。

 

以下からは、共有名義の不動産について、単独名義で持分を売却する場合の流れや注意点を解説します。

 

他の共有者への事情説明

持分を売却する場合も、必ず他の共有者に事情を説明しましょう。法的にいえば持分権者は各自の持分を自由に売却することが可能ですが、トラブルを避けるためにも、まずは売却の意向を伝えることが大切です。

 

他の共有者がその持分を買い取りたいと考えている場合など、外部の第三者へ売却するよりもスムーズに取引が進む可能性もあります。

 

購入希望者の募集

他の共有者による買取が成立しなかった場合は、第三者への売却を検討することになります。このとき、個人で買主を見つけることは難しいため、共有持分の買い取りを専門としている「持分買取業者」に依頼することが一般的です。

 

もっとも、共有名義の不動産は市場からの購入ニーズがかなり限定的なものとなるため、価格面での妥協が必要となる可能性を理解しておきましょう。

 

不動産売買契約の締結

購入希望者が決定したら、不動産売買契約の締結に進みます。共有持分の売買契約は通常の不動産売買契約とは異なり、持分のみが対象となるため、契約書の内容も特殊な構成になります。例えば、物件の使用権や管理に関する取り決め、他の共有者との関係性など、注意すべき点が多く含まれます。

 

そのため、共有持分の売買契約にあたっては、不動産取引に詳しい司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。また、他の共有者に売却する場合などでも、のちに「言った・言わない」という紛争になる可能性もあるため、仲介会社を入れて契約することをおすすめします。

 

所有権移転登記・抵当権抹消登記

売買契約が完了したら、最後に法務局で所有権移転登記手続きを行います。また、売却する共有持分に抵当権が設定されている場合には、同時に抵当権の抹消登記を行う必要があります。抵当権の抹消登記を行うには借入を事前に完済することが必要となる点にも注意しましょう。登記手続きは自力で行うことも可能ではありますが、専門的な知識が必要となるため、司法書士に依頼することが一般的です。

 

登記については、司法書士や金融機関との調整、書類の取得など費用だけでなく一定の手間もかかりますが、登記手続きを怠ると売却後に買主や第三者との間でトラブルに発展する可能性があるため、必ず登記手続きを行うようにしましょう。

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