
忍び寄る「教育費クライシス」と40代後半のリアル
「娘たちの将来も考えて、きちんとお金を貯めてきたつもりです。しかし、思ったように給与は上がらず、親の介護費用など、想定外の出費もかさみ、状況は変わってしまったんです」
厚生労働省『賃金構造基本統計調査』によると、大卒サラリーマンの平均月収(所定内給与額)は41.8万円。一方、さかのぼること20年前、2004年の調査では、平均40.0万円。1.04倍と、ほぼ変わらない水準です。年齢別にみていくと、「20~24歳」で1.16倍、「25~29歳」で1.14倍となっていますが、30代後半から50代前半は1.0を下回る結果に。昨今、賃上げ、賃上げと盛んにいわれていますが、その中心は若年層。ベテランサラリーマンは、賃上げの恩恵を受けていないことがわかります。さらにこの20年の平均給与の推移をみていくと、森さんと同世代、いわゆる氷河期世代は、社会人になってから一度も賃上げの流れにまったく乗れていないといえるでしょう。
【大卒サラリーマンの平均月収…「2004年」と「2024年」の比較】
20~24歳:21.7万円/25.2万円(1.16倍)
25~29歳:25.5万円/29.0万円(1.14倍)
30~34歳:31.9万円/34.1万円(1.07倍)
35~39歳:40.4万円/39.2万円(0.97倍)
40~44歳:46.1万円/43.3万円(0.94倍)
45~49歳:50.2万円/49.3万円(0.98倍)
50~54歳:53.3万円/52.2万円(0.98倍)
55~59歳:54.4万円/55.0万円(1.01倍)
60~64歳:47.6万円/41.4万円(0.87倍)
※数値左より、2004年の所定内給与額/2024年の所定内額(増加率)
一方で、文部科学省の調査では、私立大学の学費は年々上昇傾向にあり、入学金や授業料、施設設備費を合計すると、4年間で平均400万円以上かかることがわかります。もちろん、これはあくまで学費のみの話で、教科書代や参考書代、交通費、一人暮らしをする場合は生活費も上乗せされます。
森大輔さんのような「賃上げブームの恩恵をあまり受けられなかった」氷河期世代のサラリーマンが、子どもの希望する進路に対して「お金がない」と平謝りせざるを得ない状況は、珍しいことではないかもしれません。
「これまで家計管理は私が行い、妻には生活費を渡すスタイルでした。家計が厳しくても、それを悟られたくなかった――単なる見栄ですね」
森さんの家庭では、美咲さんの進学問題がきっかけとなり、家計の厳しさが露呈しました。しかし、これはある意味、現状と向き合うよい機会になったといいます。
課題を乗り越えるためには、まず現状を正確に把握し、夫婦で現実的な話し合いをしました。そのうえで「娘たちが大学に入るまでは、家庭に専念したい」というのが夫婦、共通の思いでしたが、美咲さんの希望を優先させるのであれば、そうは言っていられないことが判明。妻はパートに出ることになり、家計を支えることにしたといいます。
「あのとき、恥を忍んで、娘に誤ってよかった。あのまま何も語らなければ、家計が破綻していたかもしれない。むしろ、もっと早く妻には話をしておくべきでしたね」
妙なプライドにとらわれていた自分を反省しているといいます。
[参考資料]
厚生労働省『賃金構造基本統計調査』
文部科学省「令和3年度、私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)の調査結果について」