定年退職後、時間とお金のゆとりがあっても、なぜか心が満たされない――。この漠然とした「何か」に悩むシニア世代は少なくありません。内閣府の調査では、中高年(40〜64歳)のひきこもりが61万人に上り、そのきっかけとして「退職」が最も多いとされています。誰もが憧れる「悠々自適のセカンドライフ」の裏側で、一体何が起きているのでしょうか? 本記事では、山口一夫氏の著書『シニアライフの人生設計』(ごきげんビジネス出版)より、充実した第2の人生を送るためのヒントを考察していきます。
名前を呼ばれるのは病院と役所だけ…中高年の引きこもりは61万人。退職後に老後資金・時間にゆとりがあっても「今日、やることがない」
悠々自適のセカンドライフは満たされたものではない
すでにお気づきの人もいると思いますが、私たちシニア世代は現役世代の人たちと同様に、社会的欲求、人から認められたい承認欲求、自己実現の欲求をもち続けているのです。アメリカの心理学者アブラハム・マズローの「欲求5段階説」によると、人間の欲求は低次の「生存欲求」から「安全の欲求」「社会的欲求」「自我の欲求(承認の欲 求)」へと階層をなし、最後には最高次の「自己実現欲求」に達する、といった考え方になり ます。
どのレベルまでの欲求を満たしたいかは人それぞれ異なるでしょう。私が出会ってきた元気で活力に満ちたいい顔をしている人たちは、高次の欲求となる「自我の欲求(承認の欲求)」や「自己実現の欲求」を満たしているように思われます。私は自分が第2の人生をはじめるようになってから、「マズローの欲求5段階説はすごい!」とあらためて感じるようになりました。現役時代には会社生活や仕事を通じ、「社会的欲求」や「自我の欲求(承認欲求)」が満たされるのは当たり前のことでした。
しかし、退職してこれまで当たり前に満たされていたものを失うと、単に頭でわかるだけでなく、そのことを自らの身をもって強く実感させられたからです。「時間的なゆとりとお金の安心だけでは満たされない何か」は、人それぞれではないでしょうか? 「満たされない何か」は、人それぞれがセカンドライフに求める「社会的欲求」「自我の欲求(承認欲求)」「自己実現の欲求」と大きな関係がありそうです。
なぜなら、日本で暮らす多くのシニア世代の人たちは、低次の「生命の欲求」や「安全の欲求」をすでに満たされている人がほとんどだからです。定年退職後、これまでの仕事・職場を離れ、周囲の人から認められるような「承認の場」や「自己実現の場」をすぐに探すことは容易ではありません。しかし、皆さまが自ら見つけようと行動を起こさない限り、自由になる時間とお金がどれほどたくさんあっても、「承認の場」や「自己実現の場」が向こうからやってくることはないのです。
読者の皆さまには意外だったかもしれませんが、「時間的なゆとりとお金の安心がある悠々自適のセカンドライフ」の実態は、誰もが憧れるほど満たされたものではありません。
しかし、一人ひとりがそのことを正しく認識し、適切な準備と行動を起こすことで、あなたも元気で活力にあふれ、幸せに満ちた第2の人生を手に入れることが可能です。どうぞ私と一緒に、「自分の半生を振り返り、これからの自分を考える」ことから行動を起こしてみませんか。
山口 一夫
ライフデザイン講師