定年退職後、時間とお金のゆとりがあっても、なぜか心が満たされない――。この漠然とした「何か」に悩むシニア世代は少なくありません。内閣府の調査では、中高年(40〜64歳)のひきこもりが61万人に上り、そのきっかけとして「退職」が最も多いとされています。誰もが憧れる「悠々自適のセカンドライフ」の裏側で、一体何が起きているのでしょうか? 本記事では、山口一夫氏の著書『シニアライフの人生設計』(ごきげんビジネス出版)より、充実した第2の人生を送るためのヒントを考察していきます。
名前を呼ばれるのは病院と役所だけ…中高年の引きこもりは61万人。退職後に老後資金・時間にゆとりがあっても「今日、やることがない」
定年退職後、誰もが共通に失うもの
定年退職後、誰もが共通に失うものとしてわかりやすいのは、「きょう行くところ(キョウイク)」や「きょうの用事(キョウヨウ)」がなくなることです。現役生活のときは毎日会社へ行き、毎日多くの用事(仕事)がありました。しかし、退職によって、自ら何か行動を起こさない限り、この2つがまったくなくなります。
「きょう行く(キョウイク)」と「きょう用(キョウヨウ)」は、発音が「教育」「教養」とまったく同じことに気づきましたか? 一般人にとって大切なキョウイクとキョウヨウといえば、教育と教養を意味します。一方、シニア世代にとって大切なものとなると、きょう行くところや、きょうの用事の話となります。
実は「きょう行くところ」と「きょうの用事」があることは大切です。これがなくなると「社会との関係や人とのつながり」も当然希薄になってしまうからです。
現役時代は日々当たり前のように、職場の同僚や上司、お客さまや取引先とのコミュニケーションがありました。ところが「退職すると名前を呼ばれるのは病院と役所だけだ」と冗談まじりにいう人がいるくらい、外部とのコミュニケーションが減ります。
中高年の61万人が引きこもり…退職後に幸せを感じながら暮らす人、なんとなく生きる人の違い
さらに心配なことは、内閣府が2019年に行った推計調査に基づく、中高年の引きこもりは61万人、40〜64歳で若年層を上回る、といった調査結果です。なかでも男性が76.6%と多く、引きこもり状態になったきっかけは「退職」が最も多いと記されていました。
私たちは仕事を通じた人とのつながりや社会との関係性のなかで、自己を認めたり、他者を認めたりします。また、自己を尊重したり、他者を尊重したりしてきました。私たちは個人の存在や価値を認められることで、自己の能力や才能を発揮するものなのです。自己の可能性や才能を最大限に発揮し、自身の成長や、より高次の目標を達成することが自己実現となります。