息子夫婦と同居する貯金8,000万円、81歳女性の苦悩

勝木多美子さん(仮名・81歳)は夫・正男さんを亡くし、長男夫婦と同居しています。正男さんはかつて材木の卸売会社を経営していました。高度経済成長期からの建設ラッシュに乗って会社は堅調で、多美子さんも経理を担当し、二人三脚で会社を支えてきました。

しかし、10年前に正男さんが75歳で他界してから、跡を継いだ長男は低成長時代の厳しい経営環境と材木業界の斜陽化に直面することになります。

そして、8年前に会社を畳む決断をし、今は中堅企業に就職しています。経営者から一転、サラリーマンになった長男の心中は複雑なようです。

「息子はたまに酔って帰ってくると、『親父の会社なんか継がなければよかった』『好きで材木屋を継いだわけじゃない』と愚痴ります」

元々折り合いの悪かった長男の妻は、会社を整理したころから勝木さんにより冷たくなりました。食事は一緒に摂らず、同じ家のなかで極力顔を合わせないようにしているようです。

「息子夫婦とはほとんど会話がありません。それどころか、数日顔を合わせないことさえあるほどです。それでも一緒に住んでいるのは、私のお金をあてにしているからだと思います」

勝木さんには夫の遺したお金を含めて貯金が8,000万円あり、年金も月あたり15万円ほど受け取っています。そのため、保険会社や銀行から、しつこく勧誘の電話やダイレクトメールが来ます。顔見知りの営業マンが、説明も聞いていない商品の申込書を持ってやってきたこともありました。

そんなことばかりで、勝木さんは周囲から狙われているのではないかという不安に苛(さいな)まれるようになりました。

「みんな私のお金が目当てなんだと思うと、誰も信じられなくなります。息子や嫁にも相談できないし、本当に孤独です」

さらに勝木さんは最近、自分の体調が悪くなったときのことを考えて心配になるといいます。先日も軽い風邪で寝込んだとき、息子夫婦は特に気にかけてくれませんでした。熱が下がるまでの3日間、一人で布団のなかで過ごしました。

「息子も嫁も私なんかいないほうが、むしろ都合がいいんでしょう。今の状態が続けば、もし私が亡くなっても、しばらく誰も気づかないんじゃないかと不安になります」

いっそのこと、一人暮らしのほうがいいのかもしれない……そう考え始めているといいます。