元喫茶店マスターの老後…昼夜逆転のアルバイト生活

原田幸助さん(69歳・仮名)は、地方都市の古いアパートで一人暮らしをしています。 昼夜が逆転した生活の中で、夜は運転代行のアルバイトに出ています。

原田さんは、かつて地元で長年愛された喫茶店のマスターでした。若い頃から飲食店一筋。40歳のとき、勤めていた店を譲り受けて独立。常連客に囲まれながら穏やかな日々を送っていました。

しかし、その生活を一変させたのが、コロナ禍でした。外出自粛による客足の激減。家賃や光熱費は容赦なくかかる一方で、売上はみるみる減少。悩んだ末、原田さんは店を閉める決断をします。

閉店後は、単発のアルバイトを掛け持ちする生活に。「どうせ働くなら、時給が高いほうがいい」。そう考え、二種免許を取得し、運転代行のドライバーとして働くようになりました。

そんな原田さんにとって、毎年憂鬱なのが“冬”、とりわけ年末年始だといいます。

年末年始が一番つらい理由

原田さんの年金は国民年金のみ。受給額は手取りで月およそ6万円です。個人事業主として生きてきた原田さんは、厚生年金に加入した期間がありません。

地方とはいえ、月6万円ではとても生活できる金額ではありません。そのため、現在もアルバイトで月15万円ほどを稼ぎ、なんとか生活を維持しています。

そんな原田さんにとって、年末年始は“稼げない時期”です。12月28日、29日頃までは忘年会シーズンで出勤日も増えます。ところが30日から1月4日頃までは客足が激減し、会社自体が休業状態に。時給制のアルバイトですから、出勤できなければ収入はゼロです。

家族のいない原田さんは、年末年始を一人で過ごします。ビールを一本、年越しそばはカップ麺。「せめて、少しは贅沢を……」と思っても、財布の中身がそれを許しません。

実は原田さん、昔からお金の管理が得意ではなく、売上が落ち込むたびに貯金を切り崩したり、支払いを先延ばしにしたりして、その場をしのいできました。そんな生活を繰り返してきた結果、年末年始の5日間の休みが、精神的にも大きな負担になっています。

「働きたいのに、働けない」

原田さんにとって年末年始は、孤独と不安、そして寒さに耐えるだけの時間なのです。