年末年始、子や孫が集まる風景は「理想の老後」と語られがちです。しかし、その裏で祖父母世代が密かに抱えているのが、年金生活には重い「子・孫費用」と年々増す体力的負担です。お年玉や食費だけでなく、料理や掃除に追われ、正月が終わる頃には心身ともに限界に——。今回は、子3人・孫6人を持つ75歳夫婦のケースから、年末年始に集中する出費と疲労の実態、そして無理をしないための現実的な線引きについて、ファイナンシャルプランナーの三原由紀氏が解説します。
「お正月なんて、ちっとも楽しみじゃありません」年金月25万円・75歳夫婦が苦悩。総勢14人集合、出費は「18万円超」…誰もが羨む「幸せな家族」の表と裏【FPの助言】
「幸せですね」と言われるほど、苦しくなる年末年始
「お孫さんたちに囲まれて幸せですね」——そう声をかけられるたび、佐藤さん夫婦(仮名・ともに75歳)は複雑な表情を浮かべます。
「年々、体力的にしんどくなってきました。正直、お正月は夫婦2人で、静かに過ごしたいんです」
夫の和義さんは年金月19万円、妻の良枝さんは月6万円ほど。持ち家で暮らし、年金を中心に生活しています。
佐藤さん夫婦には子どもが3人おり、孫は計6人。内訳は、長男に孫3人、長女に孫2人、次女に孫1人です。年末年始になると家族が集まり、3泊するのが決まりごと。はたから見れば「孫に囲まれた幸せなおじいちゃん・おばあちゃん」。しかし当人たちの気持ちは、少し違っていました。
これは昨年、正月を迎える前の年末の話。準備が大変だと次女にこぼしたところ、「別にそんなに頑張らなくても、簡単でいいよ」――そう言われたそうです。それでも良枝さんは割り切れませんでした。
「長男のお嫁さんの手前もありますし、最低限は用意しないと……」
悩んだ末に注文したのは、結局、毎年頼むお節料理。人数が多い分、量が必要になり価格も高いのですが、毎年少しずつ値上がりしていて、7万円もしたといいます。
それだけで準備は終わりません。ローストビーフや練り物、のし餅を買い足し、黒豆や煮しめを炊き、お雑煮や年越しそばの準備も。その間、夫は寒空の下で家の大掃除に追われていました。
「年末には、もうヘトヘトでした」
そして迎えた正月。大人8人、孫6人の総勢14人が集まった食卓。料理を温め直したり、子ども用にエビフライや唐揚げ、フライドポテトなどの揚げ物を追加で作ったり、使い終わったお皿を片付けたり……。娘やお嫁さんは手伝ってくれますが、良枝さん自身も休む暇がありません。
そして正月が終わり、子どもや孫が帰った後。残ったのは静まり返った家と、抜け殻のような疲労。そして、孫全員に渡したお年玉と、物価上昇の影響もあり想像以上にかかってしまった食材費で減ってしまった通帳残高。
家族で集まることは幸せなこと。そう思っていたからこそ毎年もてなしてきました。しかし、佐藤さん夫婦は「もう限界」――そう悟ったといいます。