高齢者の孤独は一人暮らしだけの問題ではありません。家族と同居していても心の距離が離れていれば「同居孤独」に陥り、最悪の場合「同居孤独死」という事態も起こりえます。今回は貯蓄8,000万円を持つ81歳の勝木さん(仮名)の事例から、家族と同居する老人によくある親子関係の軋轢から来るリスク、そして心安らかに暮らすための選択肢について、CFPの松田聡子氏が解説します。
みんな私のお金だけが目当てなんです…貯蓄8,000万円・年金15万円の81歳女性が苦悩。息子夫婦と同居なのに「孤独死」の不安に震えるワケ【CFPの助言】
「同居孤独」から脱出するための選択肢
勝木さんのような「同居孤独」の状況から脱け出すには、どのような選択肢があるのでしょうか。一口に「解決策」といっても、状況や健康状態、経済力によって最適な方法は異なります。ここでは、段階的なアプローチを考えてみましょう。
第一に検討すべきは、親子関係の修復です。長年積み重なった感情の溝は一朝一夕には埋まりませんが、家族の誕生日や記念日に小さなプレゼントを用意するなど、小さな歩み寄りから始めるとよいでしょう。ただし、勝木さんのように関係修復が難しいケースも少なくありません。
次に考えるべきは、外部との接点を増やすことです。地域のサロン活動や老人クラブ、趣味のサークルなどに参加することで、家族以外の人間関係を構築できます。
また、各自治体では介護予防目的で、さまざまな通所型のサービスを実施しています。こうしたサービスを利用することで生活にリズムが生まれ、家族との適度な距離感も保てるでしょう。
それでも同居生活が苦痛な場合は、独立した住まいへの引っ越しも選択肢となります。勝木さんのように資金に余裕がある場合、UR都市機構や住宅供給公社が提供する高齢者向け賃貸住宅は有力な選択肢です。
特に東京都と大阪府にある「シルバー住宅」と呼ばれる物件では、緊急通報システムや手すりの設置などバリアフリー設計が施されており、高齢者が安心して暮らせる環境が整っています。
さらに、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)も選択肢の一つです。こちらは民間事業者が運営する住宅で、24時間の見守りサービスや食事の提供など、より手厚いサポートが受けられます。
それぞれの住まいを選ぶ際のポイントは、①現在の健康状態だけでなく将来の介護ニーズの考慮、②交通の利便性や医療機関へのアクセス、③コミュニティ活動の充実度、④費用負担などです。お金の面だけでなく「新しい環境でも孤独にならないか」という点も重要です。
勝木さんのように「このままでは同居孤独死してしまうかもしれない」という不安を感じているなら、地域包括支援センターへ相談するなど、できる範囲で行動してみるとよいでしょう。
松田聡子
CFP®