たとえ現役時代十分な収入があり、資産が潤沢にあっても、無計画にお金を使ってしまうと資産が枯渇してしまう可能性があります。特に収入が限られる年金生活においては、家計を見直し、将来の支出の見通しを立てることが大切です。事例をもとに、山﨑裕佳子FPが、老後破産危機に陥る原因と回避策について解説します。

いいよいいよ、私が出すから…〈年金月20万円・貯金6,000万円〉70歳女性がまさかの「老後破産危機」それでも散財をやめられない“切実な理由”【FPが解説】
70歳の年金受給額、平均は?
厚生労働省「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、70歳の老齢厚生年金の平均受給額は、年間約174万円となっています。
これに対し、総務省「家計調査報告(令和6年)」によると、65歳以上無職1人暮らしの人の支出は、年間約203万円です。この2つのデータから収支を計算すると、厚生年金受給中の70歳の家計収支は、年間29万円の赤字ということになります。
不足分は、貯蓄を取り崩すなどして補うケースが多いでしょう。そのようななか、資産も年金も平均以上あり、一見すると老後は安泰のように思える人でも、老後破産危機に陥るケースがあります。
安藤ひろ子さん(仮名・70歳)も、こうした“まさかの老後破産危機”を迎えたうちの1人。ひろ子さんの相談事例をもとに、老後資金の使い方について考えてみましょう。
夫の死から5年…預金の目減りスピードに唖然としたひろ子さん
ひろ子さんは短大卒業後、長年公務員として勤務してきました。27歳で結婚し、2人の子どもを出産した後も1年ほど産休・育休を取ったのち、仕事を続けました。
子育てしながら仕事を続けた理由は金銭的な余裕が欲しかったというのが本音です。幸い、実母が近くに住んでいたことから、困ったときは母を頼り、なんとか乗り越えることができました。
その後、ひろ子さんは60歳の定年まで働き、2,000万円の退職金を受け取りました。それ以降は働いておらず、65歳以降は年金暮らしをしています。
同い年の夫は民間企業のサラリーマンとして働き、60歳の定年後はひろ子さんと穏やかな老後を過ごしていましたが、5年前に病に倒れ、65歳で逝去。なお、2人の子どもはすでに結婚して実家を出ているため、ひろ子さんは現在1人暮らしです。
ひろ子さんの年金受給額は、月あたり約20万円(年間240万円)です。先述の調査結果を月額に直すと月14.5万円となりますから、ひろ子さんは平均以上の年金を受給しています。また、夫が死亡した際の遺産相続や自身の退職金を含め、65歳当時の預金残高は6,000万円ありました。
ところが、5年経過したいま、預金残高は5,000万円ほど。5年で1,000万円、年単位でみると200万円ずつ預金が減っているということになります。
年金も資産も潤沢で、将来の暮らしになんの心配もないはずだったひろ子さん。しかし、この目減りのスピードに急に不安になり、このままの生活で大丈夫なのかとファイナンシャルプランナー(FP)に相談することにしました。