家事はこなすが「働けない」50代の娘

「私たちの老後、もっとゆったりしていると思っていたのにね……」

東京都郊外に住む80代の夫婦、佐藤昭一さん(82歳・仮名)と妻の澄子さん(80歳・仮名)は、最近、ため息をつくことが増えました。老後のために蓄えてきた5,000万円。年金も月々約22万円あり、贅沢さえしなければ余裕のある老後生活を送れるはずでした。

しかし今、2人は老後資金の目減りにおびえ、外食や旅行を控え、節約生活を余儀なくされていました。原因は、一人娘の存在です。

娘の真理子さん(52歳・仮名)は独身。学生時代は成績も優秀で、期待も大きかったのですが、社会に出てから人間関係に悩まされる日々が続きました。パートとしていくつかの仕事に就きましたが、職場の指摘や叱責に過剰に反応してしまい、ミスを重ね、長続きしないまま退職することの繰り返しでした。

やがて「もう働きたくない」と思うようになり、今では日雇いバイトをたまに入れるだけの、実質“無職”です。働いていないことの責任を感じ、家中の掃除・料理・買い物をこなしていますが、生活費、保険料、年金の納付などは親の年金収入を頼っているような状態でした。

赤字が膨らむ老後の家計

年金に加え、貯蓄もある佐藤夫妻。家もローンなしの持ち家で、老後資金の不安はないはずでした。けれど、娘の生活費や保険料、携帯代、ときには化粧品や洋服代なども親が立て替えるようになり、いつしか家計は「月8万円の赤字」に。

このままのペースで支出を続けていては、長生きした場合に老後資金が足りなくなるかもしれません。特に医療や介護が必要になる高齢期後半に向けた準備が不十分になることを、佐藤夫妻は心配するようになりました。

手元の資金に余裕がある状況ではありますが、目に見えて減っていく預金残高を見ると不安を抱かずにはいられません。自分達がいなくなったあとの娘の生活も考えると、その不安はさらに大きくなり、結果として節約しながらの生活を送らざるをえない状況でした。

自分の存在が負担になっているとわかって家事を積極的にやってくれている娘のことを考えると「働いてほしい」と言うこともできず、佐藤夫妻は将来への不安を拭えないまま日々を過ごしていました。