夫が亡くなり悲しみに暮れる中、高額の借金があったことを知り唖然とする妻――。このように、「亡くなった後に借金が発覚する」というケースは、実は珍しくありません。債務者が亡くなると、その借金は遺族が相続することに。借金の総額がプラスの財産額を上回れば、相続放棄を視野に入れざるを得なくなります。今回は、急死した夫が保険金を遺してくれたものの多額の借金も隠していたという事例から、相続放棄の判断基準や生命保険金の有効性について、CFPの松田聡子氏が解説します。
73歳夫、永眠。年金月12万円の妻〈1,000万円の死亡保険金〉を受け取り感謝していたが…「とんでもない置き土産」発覚に絶句【CFPの助言】
夫の死後、保険金1,000万円で安堵した妻を襲った「信じがたい秘密」
倉田和之さん(仮名・享年73歳)が急性心筋梗塞で急逝したのは、初冬の朝のこと。妻の俊子さん(71歳)は悲しみに暮れ、すでに独立済みの長男(45歳)・次男(42歳)の手を借りながら葬儀を終えました。
「これから一人で生活していけるのだろうか……」
不安と孤独が襲うなかで、相続の手続きを始めた俊子さん。和之さんが会社員時代、家族のことを考えて保険に入ってくれていたのを思い出し、死亡保険金1,000万円の請求手続きを行いました。
「私の年金と遺族年金だけで生活するのは不安だったけど、この保険金があればなんとかなりそう」
ローンを完済した持ち家もあり、俊子さんは和之さんに感謝しました。ところがその後、とんでもない事実が発覚します。
きっかけは、和之さんが管理していた銀行口座の残高がほとんどないことに気づいたことでした。それだけでなく、明細には複数の借り入れの返済が記録されています。夫の部屋を調べると、借り入れに関する複数の書類が見つかりました。
「どうなっているの、これ。お父さんは一体何にお金を使っていたのかしら」
驚いた俊子さんがさらに調べると、和之さんは株の信用取引で多額の損失を出していたことがわかったのです。負債の総額は、わかっただけでも約1,000万円。保険金とほぼ同じ額でした。
突然判明した思いもよらぬ事実、借金のことを家族に言わなかった夫への複雑な気持ちが入り混じり、涙が零れた俊子さん。そして、気持ちが少し落ち着くと、「もしかして、この借金は私が払わなければならないの?」という、現実的な不安が湧いてきました。
息子たちに相談すると、和之さんの借金も相続の対象になってしまうのではないかという話に。もはや家族だけで相談しても埒が明きません。俊子さん親子は、弁護士に相談することにしました。