少子高齢化による人材不足が叫ばれるなか、中小企業の採用コストが異常な高騰を見せています。なぜ、採用費は膨れ上がるのか? 人材不足だけが原因ではありません。その背景には、中小企業が陥りやすい構造的な問題があって……。本記事では、菅谷信一氏の著書『動画とAIで変わる最新人材採用術(人材難、採用難を乗り切る新常識!)』(スタンダーズ株式会社)より、採用コスト高騰の実態について解説します。
それで辞めたらどうするの?…新卒1人の採用コストは「平均93.6万円」だが、薬学部卒業生不足に焦りまくるドラッグストア経営者が“薬剤師1人”にかけた「まさかの金額」 (※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業は広告会社と紹介会社の無自覚なカモ

増加し続ける採用コストと無駄な支出

採用にかかるコストは年々増加傾向にあります。この25年間、私は数多くの企業の採用活動に携わってきましたが、特に近年、その上昇が顕著です。コロナ禍で一時的に採用活動が鈍化した時期がありましたが、その期間を除くと採用コストは右肩上がりを続けています。

 

このままでは「採用活動が企業にとっての負担」となり、経営の重荷にもなりかねません。こうした現状を踏まえ、「中小企業の皆さん、どうか目を覚ましてください」と私は声を大にして訴えたいのです。

 

採用コストの実態

新卒と中途採用の平均費用求人広告会社のデータによると、新卒採用では、大学生の文系・理系を合わせた平均コストが「72.6万円」と報告されています(株式会社リクルート「就職白書2019」より)。さらに、翌年の白書では「93.6万円」と増加しています。つまり、10人採用するとなると総額1000万円弱の費用が必要になる計算です。

 

さらに中途採用については業種や職種によってコストが大きく異なり、例えば運送業では1人当たり「109万円」、医療福祉業では「122万円」という高額なコストがかかる場合もあります(株式会社マイナビ「中途採用状況調査」2018より)。

辞められたらパー…「500万円」を投じて採用した薬剤師

こうした採用コストの高騰に関して、私が過去に関わったあるドラッグストアでの事例をご紹介します。この企業は、薬剤師の確保が極めて難しい状況にあったため、1人の採用にかけた費用が「500万円」にも上っていました。

 

薬学部卒業生の数が限られ、製薬会社など大手企業との人材争奪が激化する中、「なんとしても人材を確保しなければ」という焦りから、結果的に過剰なコストをかける状況になっていたのです。 こうしたケースでは、企業は一時的に人材不足を解消できるかもしれません。しかし、そのコスト負担は財務に重くのしかかり、別の部門や業務にも影響を及ぼすことになります。

 

企業にとって採用は重要な投資です。ですが、その「投資」が企業運営全体を圧迫するほどの負担となれば、本末転倒です。特に中小企業では、限られた人手や予算の中でいかにして効率的に採用を行うかが、経営の健全性を保つカギとなります。