定年時にまとまった貯蓄があり、退職金を十分にもらった世帯であっても、その「使い道」を決めておかないと“思わぬ事態”を招く場合があると、牧野FP事務所の牧野CFPはいいます。退職金1,200万円を受け取ったA夫婦の事例をもとに、「老後のお金の使い道」におけるポイントについてみていきましょう。

贅沢は年に1度の温泉旅行だったが…年金月21万円・退職金1,200万円の67歳元サラリーマン「まさかの口座残高」に悲鳴。原因は“極楽”を知ってしまった妻の執着【CFPの助言】
退職金1,200万円「老後は年金で暮らそう」と決めたA夫婦
Aさん(67歳)は、東京郊外にある戸建て住宅に住んでいます。同い年の妻・Bさんとは幼なじみで、親よりも長く一緒にいる「おしどり夫婦」です。
Aさんは2年前、65歳で勤務先を定年退職しました。受け取った退職金は1,200万円で、当時の貯蓄はあわせて1,700万円ほど。
まとまった退職金が手に入ったものの、決して余裕のある老後資金ではないと感じていたAさんは、妻と「老後は年金の範囲内で生活するようにしよう」と話し合い、あわせて月21万円の年金収入でやりくりできるよう準備を行ってきました。
ただし、「節約だけじゃつまらないから、年に1回はゆっくり温泉旅行に行こう」と、老後の“お楽しみ”もきちんと用意していたのでした。
妻が旅先で過ごした“極上の時間”
そして、いよいよ定年を迎え、2人は年金暮らしをしながら、約束どおり「年1回の温泉旅行」を決行。このときだけは予算の制限をつけず、2人が行きたい場所で、食べたいものを食べる贅沢な旅を楽しみました。
そして、2度目の旅行となった昨年のこと。2人が泊まった旅館には「リラクゼーションスパ」が併設されていました。
利用料は2万2,000円と少々高めの価格設定だと感じましたが、Aさんは「せっかくだから、やったらどうだ」と妻に勧め、Bさんもそれに押されて利用してみることに。すると、旅先の高揚感もあってか、Bさんにとってそれは“極上の時間”そのものでした。
旅行から帰ってくるなり、Bさんは地域の集まりで会った友人にスパの思い出を自慢。
「ちょっと高かったんだけどね、すごく気持ちよくて。選んだコースが『美肌コース』でね、あれから本当に肌がツヤツヤしてきたような気がするの。機会があればまた行きたいんだけど、遠いからなかなかね……」
すると、友人のDさんは言いました。
「あらやだ、それならわざわざ遠くまで行かなくても、都内にいっぱいあるじゃない。私も通っているおすすめの“若返り”エステがあるわよ」
「そうなの? ちょっと興味あるわ」
「初回体験は無料だから、よかったら一緒に行ってみる?」
そしてBさんは早速、Dさんとともに紹介されたエステへ。旅先のスパ以上に心地よい施術で、接客してくれた店員さんもみな肌がきれいな人ばかりです。
ひととおり施術が終わったあと、個室に呼ばれたBさんは、「若返りコース」の勧誘を受けました。メニューは気に入ったものの、一連のセット料金は180万円。これに驚いたBさんは、申し込むのを諦め、家に帰ってきました。
しかし、帰宅する道すがら受け取ったパンフレットを見返しているうちに、その思いが変化してきました。
「ここで諦めたらもったいないかも……出産まで働いて貯めたお金もあるし、その後コツコツ貯めたへそくりもある。よく考えたら払えない金額でもないかも。自分のお金だから、私が好きに使ってもいいのよね……」
結局Bさんは、その貯金の一部を解約して、180万円をエステサロンに一括払い。Aさんには「週に1回、エステに通うことにしたの」とだけ話しました。