骨身に染みる寒さを嘆く79歳独身の男性

ある地方都市に住むAさん(79歳)は、ひとりっ子で独身です。

両親が亡くなったあとは、借家だった実家もなくなり、親戚との付き合いもありません。

Aさんは高校卒業後に上京して、都内の工務店で修行して一流の指物職人(※)となりました。

(※)釘を使わず、木の板や棒を「ホゾ(ほぞ)」と呼ばれる凹凸の切り込みで組み合わせて、箪笥(たんす)、机、茶道具などの家具や調度品を作る職人のこと

しかし、数年前に体調を崩したことで仕事を辞め、以来年金と貯金で生活するようになったAさん。その貯金も底をついた数ヵ月前、現在のアパートに、高齢者ながら何とか入居できたのでした。

そんなAさんは現在、月8万円の年金収入から4万円の家賃を支払い、残りのお金で生活しています。そのため、冬は暖房器具をつけることなく、家の中でもダウンを着て、その上に毛布を重ねて寒さをしのぐなど、思いつく限りの節約に努めながら日々を過ごしていました。

孤独な日々を過ごすAさんのもとにひとりの来訪者が

寒さが本格化した12月のある日、Aさんの家に地域の民生委員Bさんが訪ねてきました。

Aさん越しに索漠たる部屋を見たBさんは、すぐに「この人は本当に困窮している」と感じたそうです。

親身に相談に乗ってくれるBさんに、Aさんは病院に行くお金がないことや、生活費をギリギリまで削っている日々の暮らしを教えてくれたといいます。

「私からしてみたら、年越しそばすら贅沢ですよ」

そう言って力なく笑うAさんに、Bさんは一時的に生活保護を受けるよう勧めました。