家族の遺産や退職金で1億円の資産を手にした吉田泰三さん(仮名)。「このまま置いていてはもったいない」……この思いが、吉田さんを危険な投資の世界へと誘いました。しかし、理解しきれない金融商品と周囲に相談できない孤独が、彼を大きな損失へと導いたのです。一見順調に見えた投資が、なぜ大きな損失につながったのか? 60代の皆さんが資産を守りながら活用するヒントをFPの青山創星氏が詳しくお伝えします。
私、なんでこんなことをしたんでしょうか…遺産と退職金で「1億円」を手にした65歳元会社員。「このお金、放っておけない」焦りが生んだ、まさかの結末【FPの助言】
大金を手にしたシニア世代が資産を守るための5つの鉄則
吉田さんの痛切な経験から、私たちは多くのことを学ぶことができます。
1.資産を「増やす」より「守る」意識を持つ
60代以上の方や資産額の大きい方は、ハイリスク・ハイリターンを求めるよりも、資産を守ることを最優先に考えましょう。インフレ率を若干上回る程度のリターンで十分とわきまえましょう。特に退職金や相続金など、一生に一度の大きな資金は慎重に扱うべきです。
2.必ず信頼できる第三者に相談する
大きな投資判断をする前に、商品の販売業者やサービスの提供業者ではなく、家族や信頼できる友人、中立的な立場のファイナンシャルプランナーなど、第三者の意見を求めましょう。
3.子どもに遺すより自分の生活を第一に考える
子どもに多くを遺したいという気持ちは理解できますが、まずは自分自身の老後生活を確保することが最優先です。リスクをとらずに運用しないという選択も立派な判断です。運よく残ったら子どもに引き継げばよいというくらいの気持ちで、無理のない資産管理を心がけましょう。
4.投資の基本知識を身につける
信用取引など、仕組みを十分理解していない金融商品には手を出さないことが鉄則です。特に信用取引の「追証」や海外債券投資の「為替リスク」「金利変動リスク」など、投資の裏側にあるリスクをしっかり理解しましょう。
5.資産は必ず分散する
「卵はひとつのカゴに盛るな」という格言通り、資産は複数の金融商品や資産クラスに分散すべきです。預貯金、国債、投資信託、不動産など、異なる性質の資産に分散投資することでリスクを軽減できます。
吉田さんは永瀬さんのアドバイスを受け、残った資産を安全性の高い金融商品(定期預金、個人向け国債、低リスクの投資信託など)に分散させました。そしてなにより大切なことは、子どもたちに正直に状況を伝えたことでした。
「お父さん、お金のことなら、いつでも相談してよ。それよりも、お父さん自身が健康で安心して暮らせることが一番だよ」と言ってくれた長男の言葉に、吉田さんは胸が熱くなりました。
大きな損失を被ったとはいえ、まだ老後生活には十分の資産があります。これからはリスクを減らして、安心できる生活を取り戻すことを最優先にしていく……吉田さんはそう決意しました。
資産運用で大切なのは、華々しい成功ではなく、地道に資産を守り、少しずつ増やしていくこと。そしてなにより、お金があってもなくても幸せに生きる知恵を持つことなのです。あなたの老後の資産を守るための第一歩は、「無理をしない」ことから始まるのです。
ファイナンシャルプランナー
青山創星