家族の遺産や退職金で1億円の資産を手にした吉田泰三さん(仮名)。「このまま置いていてはもったいない」……この思いが、吉田さんを危険な投資の世界へと誘いました。しかし、理解しきれない金融商品と周囲に相談できない孤独が、彼を大きな損失へと導いたのです。一見順調に見えた投資が、なぜ大きな損失につながったのか? 60代の皆さんが資産を守りながら活用するヒントをFPの青山創星氏が詳しくお伝えします。
(※写真はイメージです/PIXTA)
私、なんでこんなことをしたんでしょうか…遺産と退職金で「1億円」を手にした65歳元会社員。「このお金、放っておけない」焦りが生んだ、まさかの結末【FPの助言】
「今さら子どもには言えない」…退職金を失った父親の苦悩と、真夜中の決断
「お父さん、最近元気ないけど大丈夫?」遠方に住む長女の真由美(38歳)からの電話に、吉田さんは明るく振る舞おうと必死でした。
「いやいや、元気だよ。ちょっと風邪気味でね」
真実は誰にも言えませんでした。もし子どもたちに「退職金と父親からの相続金の半分を失った」と打ち明けたら、どんな顔をされるだろう。特に長男の健太(42歳)は金融関係の仕事をしています。「投資の前に相談してくれれば……」と言われるのが、何より怖かったのです。
父親としてのプライドもありました。頼れる存在でいたい、失敗した自分を見せたくない──そんな思いが、吉田さんの口を重たくしていたのです。
吉田さんは投資の失敗を隠したまま、残る資産をどうすべきか、日夜悩んでいました。 この時、ふと頭をよぎったのは亡き妻の言葉でした。
「泰三、何か大きな決断をする時は、必ず誰かに相談してね」
その夜、吉田さんは思い切って高校時代からの親友で、退職後も穏やかな生活を送っている山田さん(仮名、66歳)に電話をかけました。すべてを打ち明けると、山田さんは「明日、私のファイナンシャルプランナーを紹介するよ」と言ってくれました。
翌日、FPの永瀬財也さん(仮名、45歳)に会った吉田さんは、これまでの経緯をすべて話しました。永瀬さんは吉田さんの話を最後まで聞くと、静かに口を開きます。
「吉田さん、あなたはお金を増やしたいというより、動かさないともったいないと感じていたのかもしれませんね。でも、資産運用って“やらない”こともひとつの選択肢なんですよ。特に今の吉田さんのように、すでに十分な資産がある方は、減らさないことの方が大切なんです」
この一言が、吉田さんの心に深く響きました。