20年間で勤労者世帯の「こづかい」が7割減少したことが話題になっています。物価上昇の影響もあると思われるものの、なぜこのように大幅に減少したのでしょうか。本稿ではニッセイ基礎研究所の久我尚子氏が、「こづかい」が近年減少している理由について詳しく分析、解説します。
若手人材の心を動かす、企業の「社会貢献活動」とは――「行動科学」で考える、パーパスと従業員の自発行動のつなぎ方 (写真はイメージです/PIXTA)

行動科学の視点でみる、従業員の持続可能な行動に対する心理的インパクト

1|「感情・認知」と「習慣」が行動を動かす鍵となる

それでは、従業員による持続可能な行動を促すうえで、どのような心理的要因が実際にインパクトを持つのか。SHIFTフレームワークとサステナ意識7因子をもとに、その関係性を整理した。

 

(図表3)サスティナビリティ意識7因子と行動へのインパクト(影響)


分析の結果⁷、とくに持続可能な行動への影響力を示したのは、SHIFTにおける「Feelings and Cognition(感情と認知)」、および7因子の「自分ごと意識(使命感・制約感)」であった(図表3)。加えて、「Habit Formation(習慣形成)」「Individual Self(個人の自己:責任意識)」「Tangibility(具体性)」も一定の影響力を持っていることが示された。これらは、あくまで一般社会における行動意向データに基づくものであるが、企業内の実務においても同様の傾向が確認される可能性がある。この結果に基づくと、具体的には、以下のような“行動の連鎖”が想定される。

 

  • 社会課題に対して「このままではいけない」という使命感(Feelings and Cognition)を抱いた従業員が、
  • 「自分にできることがある」「自分がやらなければならない」という責任意識(Individual Self)を持ち、
  • はじめは小さく社内の社会貢献プログラムに参加し、行動を習慣化(Habit Formation)していく。
  • 活動のなかで、自分の行動成果が、数値として可視化され、効果を実感(Tangibility)できるようになる。
  • その行動が周囲にも共有され「自分もやってみよう」という社会的影響(Social Influence)へと波及する

 

このようなプロセスが自然な形で社内に広がっていけば、持続可能な行動の「自走的なエンジン」が回り出す可能性がある。重要なのは、感情・認知に訴えるだけでなく、行動の「入り口」と「続けやすさ」、そして「意味づけと見える化」が設計されているかどうかとなる。

 

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⁷ 「行動」については、2024年調査で「地球環境や社会の持続可能性(サステナビリティ)について、あなたが普段、日常生活において商品・サービスを購入する際に意識することがありますか。最も近いものをお聞かせください。」という設問の5段階回答データの2つの選択肢(選ぶことがある、選ぶようにしている)を「行動する」として扱い、 1‐0の二値変数として設定して目的変数とした。説明変数は、前回の解析から抽出7因子(因子得点)として、パラメーター推定には一般化線形モデルを用いたロジスティック回帰を適用した。χ²値:431.942、自由度:7、p値:0.000となりモデルは有意である。説明変数は、主効果変数を投入した上で、ステップワイズ法によりモデルを決定した。決定係数は、McFadden's R²が0.420、Cox-Snell R²が0.254であり、モデルはデータに対してよく適合しており、中程度の説明力を示している。

 

2|行動を“やりたい”から“やる”に変えるには?~SHIFTで「行動ギャップ」を超える設計を考える

ここまでの分析では、「従業員の(社会貢献活動参加に対する)内面的な動機や主体的な行動をどのように引き出すか」という課題に対して、行動科学的アプローチの可能性を示してきた。特にSHIFTの5要素は、意識から行動への橋渡しとなる心理的要因を体系的に理解する上で、有力な手がかりとなると思われる。

 

しかし現実には、先のデータが示す様に「関心はあるが参加できていない」「やりたいとは思っているが踏み出せない」といった、「態度と行動のギャップ」が依然として大きな課題として残る。このギャップをいかに埋めるかが、実務における最大の論点といっても過言ではないだろう。

 

SHIFTはまさに、こうした行動ギャップを構造的に読み解くためのフレームであり、その解消に向けた施策設計や組織制度のあり方を考える上での出発点となりうる。