「転職で成功するのは若年層」といった見方が主流であった従来と比べ、現在の売り手市場においては、ミドルシニアの転職状況に大きな変化が見られます。本稿ではニッセイ基礎研究所の坊美生子氏が、男女別にみたミドル(40代後半~50代前半)の転職状況について詳しく分析、解説します。
男女別にみたミドル(40代後半~50代前半)の転職状況~厚生労働省「雇用動向調査」(2023年)より~ (写真はイメージです/PIXTA)

別組織に移っても応用できるようなスキルを養い、職務経験を増やしておくことが重要

本稿では、直近のミドルの転職について、具体的な状況をみてきた。始めに述べたように、従来は、「転職で成功するのは若年層」という見方が強かったように思うが、前述したとおり、ミドル男性では、転職によって賃金が増加する人の割合が、減少する人の割合を上回るなど、賃金面で「転職に成功した」と言える人が、ミドルにも増えてきたと言えるだろう。



ただし、詳細に見ると、属性によって違いがあるので注意が必要である。第一に、ミドル女性については、転職によって賃金が減少した人の方が、増加した人よりも多い。ただし、ミドル世代の女性は、「仕事と家庭の両立」へのニーズが大きく、賃金よりも、在宅勤務やフレックスタイムがしやすくなったり、転勤がなくなったりするなど、働きやすさの向上を優先している人も多い。従って、女性の転職の成果に関しては、本稿の分析だけで評価するには限界があり、別の視点で調査、分析する必要があるだろう。



転職者の職業別ランキングからは、いずれの性・年齢階級でも概ね、専門的な知識・技術や高度な職務経験がある人が、転職機会が多いと言えそうである。一方で、産業別の転職者数ランキングを見れば、人手不足の深刻な産業が上位に多く、専門性の有無に限らず、人員補充のために、中途採用を増やしているケースも多いと言えるだろう。



転職による賃金変動を見ると、「建設業」や「運輸業」の男性では賃金の増加が減少を上回った一方で、「医療、福祉」の女性や、「製造業」の50代男性では減少が上回るなど、同じ人手不足産業であっても、賃金変動には違いがあった。産業や職種によって、高い専門性が求められる組織やポジションでの採用は、たとえ人手不足であっても、企業側が求める技術レベルや経験を転職者が保有していなければ、賃金は減少するとも考えられる。



転職する人にとっては、安易に「人手不足だからミドルでも転職できる」と考えるのではなく、別組織に移っても応用できるようなスキルを養い、職務経験を増やしておくことが重要だと言えそうである。