「転職で成功するのは若年層」といった見方が主流であった従来と比べ、現在の売り手市場においては、ミドルシニアの転職状況に大きな変化が見られます。本稿ではニッセイ基礎研究所の坊美生子氏が、男女別にみたミドル(40代後半~50代前半)の転職状況について詳しく分析、解説します。
男女別にみたミドル(40代後半~50代前半)の転職状況~厚生労働省「雇用動向調査」(2023年)より~ (写真はイメージです/PIXTA)

賃金アップした人が多いミドルの転職先

企業規模別にみた賃金変動の構成割合

次に、厚生労働省の「雇用動向調査」より、転職によって賃金増減したミドルの構成割合を、転職先区分ごとに分析する。まずは企業規模別にみたものが[図表7]である。

 

[図表7]企業規模別にみたミドルの転職者数と賃金増減の割合



まず「45~49歳男性」を見ると、常用労働者4のうちパートタイムを除く「一般労働者」から「一般労働者」への転職者のうち、賃金が「増加」した人は全体の31.0%、「減少」した人は26.6%で、増加した人の方が多い。10人中7人が、転職後の賃金は「同等または増加」ということになる。企業規模別に見ると、賃金が増加した人の割合は、「300~999人」や「1,000人以上」と「30~99人」で「増加」が3~4割と大きかった。人件費に余裕のある大企業や中堅企業と、人手不足が深刻化している中小企業が、良い労働条件を示して、新設、拡大する事業の担当者を募集したり、空きポストの補充をしたりしていると考えられる。



一方、「45~59歳女性」では、同様に「一般労働者」から「一般労働者」への転職者のうち、転職によって賃金が「増加」した人が33.9%、「減少」した人が39.9%で、減少した人の方が多かった。ミドルでは、女性の方が、専門スキルや高度な職務経験がある人、管理職経験者が少ないことが関連していると考えられる5。企業規模別に見ると、「1000人以上」と「100~299人」で「増加」の割合が4割弱と高かった。女性の場合、転職の際に「柔軟な働き方」を重視する人が最も多いため、賃金が減少しても、本人の希望に反しているとは限らないが6、金銭面だけを見れば、ミドル女性で転職によって賃金アップする人は少数派だと言える。

 

次に「50~54歳男性」を見ると、賃金が増加した人は29.3%、減少した人は22.8%で、依然「増加」した人の方が多い。従来、転職で処遇が上がるのは若年層というイメージを持つ人も多かったと思うが、40代後半から50代前半のミドル男性では、実際に転職で賃金ダウンしているのは約2割だった。企業規模別に見ると、「300~999人」や「1,000人以上」で「増加」の割合が4割弱と高かった。

 

最後に「50~54歳女性」では、「増加」が31.9%、「減少」が39.3%で、減少した人の方が多かった。企業規模別に見ると、1000人以上で4割弱と高かったが、100~299人で5割弱に上り、突出して高かった。人手不足が深刻化する中小企業が、より良い労働条件を示して、ミドル女性を積極的に中途採用していると考えられる。管理職として、前職よりも好待遇で招いているケースもあるだろう。

 

4 期間を定めずに雇われている人や、1カ月以上の期間を定めて雇われている人。
5 坊美生子(2024)「『中高年女性正社員』に着目したキャリア支援~『子育て支援』の対象でもなく、『管理職候補』でもない女性たち~(基礎研レポート)
6 坊美生子(2025)「女性管理職転職市場の活発化~「働きやすさ」を求めて流動化し始めたハイキャリア女性たち~」(基礎研レポート)

 

産業別にみた賃金変動の構成割合

最後に、同調査より、転職によって賃金が増減したミドルの割合を、産業別に分析したものが[図表8]である。まず「45~49歳男性」では、「建設業」で「増加」が6割超と圧倒的に高く、「減少」はほとんどいない。

厚生労働省の「労働経済動向調査」(令和6年11月の状況)によると、建設業の人手不足感は、全産業の中で最悪であり、人員面で逼迫した企業が、良い労働条件を示して人材獲得を急いでいると考えられる。産業別転職者数で3位だった「運輸業、郵便業」も、「増加」が半数近くに上った。運送業でも運転士不足が深刻化している影響があると考えられる。産業別の転職者数が最多だった「製造業」は、「増加」が33.2%、「減少」が32.2%で、ほぼ均衡していた。同様に、人手不足感が強い産業だが、転職者のスキルや経験等によって、賃金の変化は分かれたようだ。

 

[図表8]産業別にみたミドルの転職者数と賃金増減の割合



「45~49歳女性」では、産業別で転職者数がトップだった「医療、福祉」では、「増加」が28.5%に対して、「減少」が53.1%と過半数を占める。人手不足感が強く、専門性も高いと考えられるが、労働条件は厳しい結果となった。転職者数が2位の「卸売業,小売業」ではわずかに「増加」が「減少」を上回った。転職者数が3位の「製造業」では「増加」より「減少」の方が高かった。逆に、減少よりも増加の割合が高かったのは「金融業、保険業」で約6割に上った。金融、保険の中でも専門スキルのある女性が転職していると考えられる。



次に、「50~54歳男性」では、「建設業」は「増加」は21.9%で、45~49歳に比べると小さいが、「変わらない」が77.0%で、「減少」はほとんどいなかった。転職者数が最多の「製造業」では、「増加」よりも「減少」の方が多かった。転職者数が3位の「運輸業、郵便業」では、「増加」が42.9%、「減少」は38.2%で、45~49歳に比べると、差が縮まっていた。「医療、福祉」では、45~49歳とは逆に、「増加」が70.0%を占めた。「医療、福祉」の転職者の内訳が、45~49歳では「社会保険・社会福祉・介護事業」が過半数で「医療業」は少数だが、50~54歳では逆転することが、影響している可能性がある。

 

「50~54歳女性」では逆に、「製造業」で「増加」の割合が6割弱に上った。設計や開発部門で専門技術のある女性が賃金増加しているというよりも、企画や人事など、事務系のコーポレート職種で専門スキルを持つ女性が、管理職層への就任を含め、好待遇で転職しているとも考えられる。「運輸業、郵便業」と「金融業、保険業」でも「増加」が7割を超えた。