人生100年時代。何歳まで生きるかわからないなか、老後資金に不安を感じる人は多いでしょう。一方で、計画的に貯めることができた人にも、新たな悩みが出てくることがあるようで……。本記事ではAさんの事例とともに、資産形成の先に潜む心の葛藤について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説していきます。
老人ホームのために40年も頑張ってきたわけじゃない!…〈年金月15万円〉〈資産1億円〉有り余る資産を抱えた63歳おひとり様女性が突然、嗚咽したワケ【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

一般人でも資産1億円以上の「いつの間にか富裕層」に

株式会社野村総合研究所は、2023年時点で金融資産の合計から負債を差し引いた「純金融資産」を1億円以上保有する「富裕層」と5億円以上保有する「超富裕層」が合計で165万世帯に達したことを2025年2月に発表しました。この世帯数は2005年の調査開始以来で最多であり、富裕層は前回(2021年時点)に比べると約1割増えています。

 

理由としては、当時の株価の急騰や円安による外貨建て資産の増加等を掲げています。ここで面白いのは、こういった理由で資産が急増して富裕層になった人たちを「いつの間にか富裕層」と表現しているところです。この「いつの間にか富裕層」は決して特別な人たちではなく、従業員持株会や確定拠出年金さらにNISA枠の活用で資産を増やした40代後半~50代の会社員が多いとしています。

 

最近では「トランプ関税ショック」で株価の乱高下が気になりますが、「いつの間にか富裕層」は、あなたの周りにも案外いるかもしれませんね。

 

出所:株式会社野村総合研究所ニュースリリースより引用
[図表1]純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数 出所:株式会社野村総合研究所ニュースリリースより引用

「いつの間にか富裕層」の63歳おひとり様女性の悩み

関東地方のとある県に住む元会社員・63歳おひとり様のAさんも「いつの間にか富裕層」の一人です。

 

*以下、本人が特定できないように脚色しています。

 

Aさんの資産は、若いころから行っていた純金積立てが中心です。ほかにも社内積立てや個人年金保険など長い時間をかけてコツコツと続けてきたため、気が付けば退職金等も含めると1億円を超えていました。

 

「入社当初は、将来の結婚資金のためにと思って始めた積立てですが、生真面目さや地味な人格が災いしたのか、結局結婚はできなかった」とAさんはいいます。

 

そんなおひとり様のAさんは、自身で培った資産のほかにも亡くなった両親が残してくれた不動産も所持しており、「使い切れない」と感じるようになりました。

 

一人暮らし(単身世帯)の65歳以上の女性が1ヵ月に必要とする生活費は15万5,923円(総務省統計局の2024年の家計調査年報(家計収支編))です。Aさんの年金は月額約15万円の見込み。公的年金だけで生活費をカバーできる金額であるため、たしかに老後の生活に不安はないでしょう。