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「ひとり」を阻む4つのハードル
一方で、「ひとり」での行動に課題があるのも確かだ。スマートフォンが我々の生活から「ひとり」を拒む大きな要素となっており、たとえ一人で行動していてもLINEやSNS、アプリの通知、着信、送られてくる大量のダイレクトメールなど、スマホを通じて常に他人との接点を持たされてしまう。
前述した通り、「ひとり」という状態は属性の話ではなく、概念へと変化しているからこそ、どれだけ物理的に他人と距離をとって「ひとり」になろうとしても、一人になりきれない、一人でいるのに他人(外部情報)を気にしなくてはならない、状態になってしまう。スマホから距離を取りたくても、何か急用があったら困る、自分がスマホに触れていない間の世の中の動向が気になるという心理が、概念としての「ひとり」になる事を阻む要因となっていると言えるだろう。
博報堂生活総合研究所の「日常生活に関する意識調査(第3回)」によればこのような心理的な要因を含め、「ひとり」行動をしたくてもハードルがある、と68.7%が回答している。また、そのハードルは「資源」「環境」「自意識」「対応力」の4つに分類される。
まず、「資源」は一人だと割り勘できない、高くつく、自分のためだけにお金を使いたくない、など費用※12がネックとなっている。「ひとり」行動をしたくてもハードルがあると回答した内44.7%に該当していた。
「環境」は育児や家事などを代われない、家族の負担や干渉を考えると行動しづらい、など自分の都合以外が絡む複雑な環境がネックになっている。回答者の内29.2%に該当していた。
「自意識」は子育てをしないで遊んでると思われる、家族を置いていく後ろめたさがある、変わっていると思われたくない、といった周囲の目がネガティブな感情を生む要因となっている。本記事で筆者が記してきた「おひとりさま」という言葉が生み出す偏見がこれに該当するだろう。回答者の内27.1%に該当していた。
そして「対応力」は言語の問題、事故などの対応、安全面への不安など、自由がある分、責任も自分で全て持つ必要があるというリスクがハードルになっている。回答者の内19.7%に該当していた。
※12 余暇を取りづらいなどの、時間の問題もここに含まれる。
「ひとり」消費が加速する
このようなハードルは、自分で解決できるものもあれば、周りの理解で解消するものもあるが、マーケットの手助けがあれば、さらに下げることができる。例えば冒頭で紹介したコンサートや推し活を目的とした一人でのピンポイント旅であれば、ライブ会場付近のコインロッカー以外で荷物は預けにくいため市内観光をするためには荷物を持ち運びしなくてはいけないという問題があるが、荷物を一定時間無料で預けることができる観光案内所があれば、市内観光も可能だし、開演までファミレスやカラオケで時間をつぶさなくてもよくなる。
また、高速バス事業を運営するWILLER EXPRESS 株式会社が行った「2024年ゴールデンウィーク期間 高速バス「WILLER EXPRESS」の予約動向」※13調査によれば、ゴールデンウィーク期間中の利用者数の50.6%が「ライブ・イベント」などの推し活目的で利用すると回答しており、半数を超えている。ホテルの宿泊費用が高騰していることで宿泊費を抑えられるというメリットや、早朝に着くから早くグッズ販売に並べる、そもそも観光が目的ではないから費用を抑えたいという理由からだ。
一方で、女性は夜間に一人でバスに乗るという事に抵抗があるかもしれないが、WILLER EXPRESSのように女性専用車両や女性専用シートの提供、女性客の隣席が女性となるように配置するサービスがある夜行バスも増えており、女性の「ひとり」行動のハードルを下げることに繋がっている。
一人で行動すること自体がネガティブな事として捉えられがちだが、「ひとり」という事が合理的な選択として、より世の中に浸透すること、そして「ひとり」で消費することのハードルが下がることで、「おひとりさま」や「ぼっち」と呼ばれる状態(レッテル)がむしろ普通になっていき、そのような言葉を使う必要がない社会に進化していけばいいと切に願っている。
※13 WILLER EXPRESS 株式会社「高速バス「WILLER EXPRESS」、ゴールデンウィークの予約動向速報 「推し活」での
利用が半数超え、長距離路線を中心に空席少なく 連休中日が予約の穴場!」2024/04/19 https://www.willer.co.jp/news/press/2024/0419_5831
