トランプ・ショックで全世界に混乱が広がっていますが、投資をしている限り暴落を避けることはできません。そのため、相場の回復を待つことが難しい年金生活者や退職間近の人は、リスク対策をより一層しっかりしなくてはなりません。さもなければ、取り返しのつかない事態に陥る可能性もあります。今回は、定年退職後に「年金プラス10万円」の不労所得獲得を目指して投資に手を出し、老後資金を目減りさせてしまった根岸さんの事例から、年金受給前後の人が投資を検討する際の注意点と対策を、CFPの松田聡子氏が解説します。
投資になんて手を出すんじゃなかった…年金月18万円、資産2,600万円の68歳元会社員が“人気の投資”に1,200万円を投入。「月10万円の不労所得」を夢見るも、悲しい結末へ【CFPの助言】
人気だった高金利通貨のスワップポイント投資が高齢者に不向きな理由
根岸さんが始めたメキシコペソ円のスワップポイント投資は、ここ数年、多くの個人投資家に人気を集めていました。
スワップポイント投資の仕組みは、二国間の金利差から生まれる「スワップポイント」と呼ばれる収益を毎日受け取れるというものです。メキシコの政策金利は日本より高く、メキシコペソ円の買いポジションを持つと、スワップポイントを受け取れるのです(反対に売りポジションを持つと、スワップポイントを支払います)。
さらに、メキシコペソ円取引は比較的少ない元手で始められます。レバレッジを効かせれば、さらに少ない資金で大きなスワップ収入を狙えます。ただし、レバレッジが高いほどリスクも比例して高まるため、根岸さんはレバレッジをかけないで(1倍)取引していました。
しかし、メキシコペソの上昇トレンドが2024年6月のメキシコ大統領選挙を機に転換します。その後のメキシコ中央銀行の利下げなども影響し、急落していったのです。これは、高金利通貨に非常によくあるケースです。メキシコペソの値下がりは急激でしたが、それ以前の値上がりもかなりの急上昇でした。この値動きの大きさは高金利通貨の特色であり、リスクです。
メキシコペソが急落した際、多くのスワップ投資家が「含み損を我慢すればスワップ収入は続く」という心理的な罠にはまりました。確かにスワップポイントは日々入ってきますが、為替差損をカバーしきれないケースもあります。
その場合、高齢者にとって特に厳しいのは「時間」という制約です。若い投資家なら「長期保有して値戻りを待つ」という選択肢もありますが、高齢者にはその時間はほとんどありません。
また相場急変時の判断の遅れが大きな損失につながる場合もあります。特に損失を確定する判断は、取り戻すのが難しい高齢者にとって特に辛く感じられるでしょう。そのために、適切なタイミングでの損切りができず、傷を深めてしまうおそれがあるのです。