複雑な公的年金のルール。しっかりと理解していないと想定していたマネープランと大きな相違が生まれ、生活に支障をきたすというケースも。それは家族が亡くなり、遺族が受け取れる遺族年金についても同じです。
ふざけるな!66歳妻〈年金月25万円〉繰下げ受給を選択した享年72歳夫に感謝も、遺族年金の手続きで訪れた「年金事務所」で大激怒のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

亡き夫の年金月額25.56万円…受け取れる遺族年金額に愕然

突然の夫との別れではありましたが、時の流れとともに少しずつ落ち着いていきました。しかし、穏やかさを取り戻した日常に再び波乱が。それは久美子さんが遺族年金の手続きのために年金事務所を訪れたときのこと。

 

久美子さんが受け取れるのは遺族厚生年金。豊さんが受給していた老齢厚生年金の4分の3にあたる月額14.07万円を受け取れるはずでした。豊さんが受給していた老齢厚生年金は月額18.76万円。その4分の3なので、月額14.07万円を受け取れる計算でした。しかし年金事務所での試算の結果、月額8.4万円。大きな開きがあったのです。

 

――ふざけないで、そんなに少ないわけないじゃない!

 

豊さんは「将来受け取る年金額を増やしたい」と考え、年金の繰下げ受給を選択していました。これは65歳から原則受給開始となる老齢年金の受け取りを遅らせる代わりに、年金額が増額されるという制度。1ヶ月遅らせるごとに0.7%増額されます。豊さんの場合、仕事をしていた70歳まで繰り下げたので42%増額。基礎年金と合わせて、月額25.56万円を受給していました。そこから計算しても、月額8.4万円なんて少なすぎる。

 

――夫がせっかく年金を増やしてくれたのに……

 

年金が少ないことに腹をたてたわけではなく、夫の想いが否定された気がして怒ってしまったと……そんな久美子さんに事務所職員は冷静に説明します。

 

――遺族厚生年金の額は、亡くなった方が繰下げ受給していた場合でも、繰下げ増額前の本来の額、つまり65歳から受け取った場合の額を基に算出されます

 

久美子さんは、夫が繰下げ受給して増額された年金額が遺族厚生年金に反映されるわけではないことを初めて知りました。

 

――まさか、そんな理不尽なことってある!?

 

久美子さんは年金事務所で、夫への感謝と制度への不信感が入り混じった複雑な感情に襲われ、その場で崩れ落ちてしまいました。

 

遺族年金にまつわる勘違い。ほかにも「夫の厚生年金と基礎年金の全額の4分の3がもらえる」という間違いはよく指摘されるもの。遺族厚生年金は夫の老齢厚生年金の4分の3であり、基礎年金は含まれません。また「遺族厚生年金と老齢厚生年金を同時に満額もらえる」という勘違いもあるある。65歳以上で老齢厚生年金と遺族厚生年金を受ける権利がある場合、妻自身の老齢厚生年金は全額支給。遺族厚生年金は、老齢厚生年金より年金額が高い場合に、その差額のみが支給されます。

 

複雑な年金制度。しかし基本を押さえておかないと、年金事務所で崩れ落ちることになります。

 

[参考資料]

株式会社鎌倉新書『お葬式に関する全国調査(2024年)』

日本年金機構『遺族年金』