40歳前後で住宅購入に踏み切る世帯が多いものの、事情により50歳前後など遅れて住宅購入を考えるケースもあるでしょう。年齢と共に収入が増えることから高額のローン返済が可能だと考える人もいるかもしれませんが、短い期間の住宅ローンを完済しきるには慎重な計画が欠かせません。今回は、マイホーム購入後に思わぬ危機に直面した田中さんの事例をもとに、遅めに住宅購入をする際のリスクと失敗した場合のリカバリーについて、CFPの松田聡子氏が解説します。

年収700万円・49歳会社員、満を持して5,000万円の新築マンション購入。“終の棲家”を手に入れたはずが…わずか7年で〈賃貸暮らしに逆戻り〉となった「まさかのワケ」【CFPの助言】
ここで一生暮らすはずが…急転直下、賃貸に逆戻りのワケ
「まさか、家を手放すことになるとは思ってもみませんでした」。そう肩を落とす田中正志さん(仮名・56歳)の表情には、諦めと後悔が入り混じっていました。
大手電機メーカーで転勤を繰り返してきた田中さんは「いつかは自分の家を」という思いを胸に、賃貸住宅での生活を続けてきました。そして7年前、49歳になってようやく念願のマイホーム購入を実現させました。
国立駅近くの新築マンション(3LDK・5,000万円)に妻の美香さん(54歳)と共に入居したとき、「ここで老後を迎えられる」と安堵したといいます。
「息子も大学を卒業して独立するところで、ちょうどよいタイミングでした。頭金1,000万円、残り4,000万円を20年ローンで組みました。ボーナス返済なしで毎月の返済額17.5万円なら十分返せると計算していたんです」
田中さんの年収は700万円で世帯の手取り月収は50万円ほどあり、それなりに余裕のある返済計画でした。64歳で残債が1,000万円になったところで繰り上げ返済をし、65歳からは年金生活に入る——そんな老後プランを描いていました。ところが昨年、55歳で迎えた役職定年が全ての計画を狂わせました。
「制度自体は知っていましたが、まさか収入が3割も減るとは」
役職手当や業績給がなくなり、年収は一気に500万円に下がりました。月々の返済17.5万円に加え、マンションの修繕積立金が2万円かかります。これまで貯蓄に回していた分が削られ、生活は徐々に苦しくなっていきました。
「いまはギリギリ返済できても60歳以降の雇用はどうなるかわかりません。そしておそらくいまよりさらに収入が減るでしょう。そうなれば毎月大幅な赤字が続くことになります」
悩んだ末、田中さん夫妻は購入から7年でマンションを売却する決断をしました。幸い立地のよさから4,500万円で売却でき、ローンを完済して手元に1,800万円ほどが残りました。
こうして田中さんは、再び賃貸住宅での生活に戻ることになったのです。