40歳前後で住宅購入に踏み切る世帯が多いものの、事情により50歳前後など遅れて住宅購入を考えるケースもあるでしょう。年齢と共に収入が増えることから高額のローン返済が可能だと考える人もいるかもしれませんが、短い期間の住宅ローンを完済しきるには慎重な計画が欠かせません。今回は、マイホーム購入後に思わぬ危機に直面した田中さんの事例をもとに、遅めに住宅購入をする際のリスクと失敗した場合のリカバリーについて、CFPの松田聡子氏が解説します。
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50歳前後での住宅購入におけるリスクと役職定年の予想外の影響
住宅購入は人生最大の買い物とよくいわれますが、特に50歳前後での購入には、若い世代とは異なるリスクが潜んでいます。田中さんのケースで最も大きな影響を与えたのは「役職定年」という制度でした。
多くの日本企業では、50代半ばに役職定年制度を設けています。この制度自体は広く知られていますが、実際にどの程度収入が減少するのかを正確に把握している社員は意外と少ないのが現実です。
「役職定年で基本給は変わらないから大丈夫」と考える人も多いのですが、実際には役職手当、業績給といったさまざまな手当がなくなり、総収入は20〜30%も減少するケースが一般的です。田中さんも年収700万円から500万円へと約30%の減収となりました。
最も厄介なのは、この収入減少が住宅ローン審査時には考慮されにくい点です。銀行は申し込み時点の収入をベースに審査するため、未来の役職定年による収入減を自ら想定して借入額を抑える必要があります。しかし多くの場合、「いまの収入が続く」という前提で計画を立ててしまいがちです。
役職定年のある会社の場合、40代後半〜50代前半が年収のピークとなる人が多いでしょう。この最高収入期をベースにローンを組むと、その後の収入減少時に返済が苦しくなるリスクが高まります。
田中さんが気づくべきだったもうひとつのリスクが、繰上返済計画です。「64歳で残債1,000万円を返済する」という計画は、退職金と貯蓄によって、繰上返済をしても老後資金が手元に残るというものでした。
そのためには退職金が想定どおりに支給され、返済中に貯蓄に励む必要があったのです。しかし、役職定年によって退職金額も減少する可能性があり、さらに給与収入減少によって貯蓄もままなりません。
予定どおり繰上返済ができない場合、年金受給年齢の65歳以降も返済が続くことになります。しかし、65歳からの年金だけでは住宅ローンを返済しながらの生活は厳しく、かつ住宅ローンが完済されたあとも固定資産税や修繕積立金など、住宅維持費は継続的にかかります。
さらに、2024年3月のゼロ金利解除は、変動金利で住宅ローンを組んでいた田中さんにとって、追い打ちをかける形となりました。
50歳前後で住宅を購入する場合、これらのリスク要因をしっかりと考慮し、最悪のシナリオを想定した慎重な返済計画が不可欠です。「将来の不確実性」を組み込んだ計画なくして、安心できる老後は望めないのです。