本稿では、ニッセイ基礎研究所の久我尚子氏が2024年12月の家計消費の動向を振り返り、コロナ禍前の比較から2025年の見通しまで、詳しく解説します。
家計消費の動向――物価高でメリハリ傾向が強まるが、全体では緩やかに改善傾向 (写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍で増加していた費目


(1) 内食・中食~出前は堅調、物価高で外食控えによる代替手段需要もある一方、値の張る食材を控える傾向も
ここからは、コロナ禍の影響で支出額が増えていた費目について考察する。内食(自炊)や中食(冷凍食品や総菜、出前)に関連する費目は、コロナ禍初期には「巣ごもり需要」によって増加していたが、消費行動の平常化に伴い、コロナ禍をきっかけに供給量が増えた「出前」(名目値であることに注意)と家飲み需要に関連する「チューハイ・カクテル」を除くと、一時期よりも減少傾向を示すようになっている[図表4(i)]。ただし、「パスタ」や「冷凍調理食品」は2023年と比べて2024年の方が増加しているが、「生鮮肉」は引き続き減少傾向が続いている。

 

物価高が継続する中で、外食控えによる代替手段として需要が増している費目もある一方、値の張る食材の購入を控える様子も見受けられる。なお、物価高の中でも「冷凍調理食品」などの需要が減っていない背景には、単身世帯や共働き世帯の増加による利便性重視志向の高まりという中長期的な構造変化もあげられる。

 

(2) デジタル娯楽~デジタル化の進展でアプリや電子書籍は堅調、ストリーミングやクラウド型が主流に
コロナ禍による巣ごもり生活で需要が増加した「電子書籍」や「ダウンロード版の音楽・映像、アプリなど」はデジタル化の進展を背景に堅調に推移している[図表4(j)]。これらの費目は名目値で示しているが(消費者物価指数が存在しないため)、物価高の影響を考慮しても、コロナ禍前より高水準にあると考えられる。2024年12月の消費者物価指数(「持家の帰属家賃を除く総合」)は2019年12月と比較して+11.9%上昇しているが(「教養娯楽」は+11.5%)、デジタル娯楽関連の支出の増加率はこれを大きく上回る。

 

一方、「音楽・映像ソフト、パソコン用ソフト、ゲームソフト」の支出は減少傾向を示している。この背景には、サービス提供形態が物理的なメディア(CDやDVD、Blue-Rayなど)からストリーミング形式のサブスクリプションサービスへの移行や、クラウド上でのサービス提供への移行(パソコン用ソフト等)、無料コンテンツの充実などがあげられる。

2024年は物価高でメリハリ消費の強まり、2025年は実質賃金増で消費拡大が期待

本稿では、総務省「家計調査」を用いて、コロナ禍以降、2024年12月までの二人以上世帯の消費動向を捉えた。その結果、2023年5月の5類移行後、消費行動は平常化に向かっているものの、物価高によって可処分所得が伸び悩む中で、食料や日用品などの日常的な消費は抑制される一方、コロナ禍で控えられていた旅行・レジャーなどの非日常的な消費が比較的優先される傾向にあり(とはいえ、コロナ禍前より低水準)、消費者の選択性がより高まっている様子がうかがえた。

 

また、2024年を振り返ると、娯楽の中でも割高感や優先度などから温度差が生じており(国内旅行や遊園地と比べて、海外旅行や外食の回復基調が弱いことなど)、消費者はコストパフォーマンスを重視し、より慎重に消費対象を選ぶ傾向、つまりメリハリ消費の傾向が一層強まる様子が見て取れた。さらに、これまでも指摘してきたように、バスやタクシーの運転手の高齢化による供給不足やテレワークの普及など行動変容に伴う支出額の減少といった、社会や消費構造変化の影響も確認された。

 

冒頭で述べたように、個人消費は引き続き緩やかな改善傾向を示しているが、2024年12月時点では依然としてコロナ禍前の水準を下回っている。その要因としては繰り返しになるが、可処分所得が増加していないために消費が抑制されていることがあげられる。

 

一方で2025年は昨年に引き続き、高い賃上げが見込まれ、年後半には賃金の上昇率が物価上昇率を安定的に上回ると予測されている4。そうなれば、消費者が実際に使えるお金が増え、従来のメリハリ消費において「節約」の比重は徐々に和らぎ、消費全体が活発化していくことが期待される。なお、最近の消費行動においては「推し活」をはじめとする「こだわり消費」の存在感が増しており、この「こだわり消費」も今後の消費回復を後押しする要因となるだろう。

 

4 斎藤太郎「2024~2026年度経済見通し」、ニッセイ基礎研究所、基礎研REPORT(冊子版)1月号[vol.334](2025/1/9)


5 久我尚子「2025年の消費動向~節約一服、コスパ消費から推し活・こだわり消費の広がり」、ニッセイ基礎研究所、研究員の眼(2025/2/13)