1月下旬から2月上旬にかけて、いわゆる「103万円の壁」にの撤廃について厚労省は与党に次期改革案を示しました。本稿では、ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏がパート労働者に対する厚生年金適用拡大と今後の展望について詳しく解説します。
パート労働者への厚生年金の適用は、2027年から徐々に再拡大へ (写真はイメージです/PIXTA)

1.先月の動き

年金数理部会は、公務員共済等の2023年度の財政状況をヒアリングした。資金運用部会は、GPIFの次期中期目標案と次期中期計画案について議論した。

 

・社会保障審議会 年金数理部会

1月14日(第103回) 2023年度財政状況(国家公務員共済、地方公務員共済、私立学校教職員共済)

URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198131_00052.html (資料)
 

・社会保障審議会 資金運用部会

1月27日(第26回) GPIFの次期中期目標案、中期計画案(骨子)

URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_shikinshiryo26.html (資料)

 

2.ポイント解説:与党へ示された、パート労働者に対する厚生年金適用拡大の実施案

1月下旬から2月上旬にかけて、厚労省は与党に次期改革案を示した*1。法案化までに内容が変わる可能性もあるが、本稿ではパート労働者への厚生年金の適用拡大について確認し、今後を展望する。

 

*1提示された資料は公表されていないため、報道等をもとに本稿を作成した。

 

1|適用の要件:2027年10月から2035年10月にかけて徐々に拡大

パート労働者(短時間労働者)に厚生年金が適用される際の要件には、次の4つがある*2

 

*22020年改正(2022年10月施行)の前までは勤務期間にパート労働者特有の要件(1年以上の見込み)があったが、同改正後は一般の労働者と同じ要件(2か月超の見込み)になった。

 

(1) 企業規模:4段階に分けて段階的に撤廃(不問)へ

 

企業規模の要件は、法律の附則で定められた激変緩和措置で、これまでも段階的に拡大されてきた。次期改革では、前回改正で成立した「社員50人超」から前回改正の素案で示された「撤廃」への変更が以前から見込まれており、どのように実施されるかに注目が集まっていた。

 

2024年12月に公表された審議会(年金部会)の報告書では、撤廃の方向性が示されたものの、具体的な実施方法は記載されなかった。2025年1月24日に自民党へ示された案では、2027年10月に社員20人超の企業へ拡大し、2029年10月に企業規模要件を撤廃する方針が示された。しかし、同月29日に示された案では、24日の案よりも段階を細分化して拡大する方針が示された(図表1)。

 

出所:ニッセイ基礎研究所
出所:ニッセイ基礎研究所

 

なお、要件を満たさない事業所であっても、労使が合意すれば任意で厚生年金の適用を受けられる。人手不足などで社会保険の適用が求人で有利になる状況では、任意適用が進む可能性がある*3

 

*3年金数理部会の資料によれば、任意適用されているパート労働者は2023年度末に1.2万人存在する。

 

(2) 所定労働時間:「週20時間以上」が維持されるが、将来的には「週10時間以上」への拡大も

 

所定労働時間の要件は、週20時間以上という基準が継続されてきた。これは、法定労働時間の半分以上である点や、雇用保険の基準と同じである点が、根拠となってきた。

 

しかし、経団連は中長期的な拡大を提言しており、雇用保険では基準を週10時間以上とする改正が2028年に施行される。与党に示された案では現行基準が維持されているが、2030年頃の年金改革では、雇用保険の施行状況を見ながら拡大される可能性もある。

 

(3) 賃金(基本給月額):最低賃金の上昇による空文化を受けて撤廃(不問)へ

 

賃金の要件は、基本給が月8.8万円以上だが、年収「106万円の壁」として話題になっている。しかし、最低賃金が時給1,016円以上になれば、週20時間以上働くと必ず要件を超え、規定が空文化する。

 

審議会の報告書は最低賃金の動向を踏まえた撤廃を求めており、与党へ示された案では「改正法の公布から3年以内に撤廃」となっている。今後の最低賃金の動向は予断を許さないが、人手不足を背景に近年の上昇ペースが続けば、3年を待たずに賃金要件が撤廃される可能性がある*4
 

*4前述のように2030年頃の改正で所定労働時間の要件が週10時間以上に拡大されれば、現在の賃金要件を下回る労働者が適用対象となる可能性もある。その際に新たな賃金要件を求める声があがる可能性もあるが、年収の壁が人手不足の要因とされ、経団連も適用拡大を求めていることを踏まえれば、賃金要件が復活する可能性は低いと考えられる。

 

(4) 昼間学生の除外:現在の要件を維持

 

学生については、就業年数が限られることや実務の繁雑さを踏まえて、審議会の報告書は昼間学生を除外する現行基準の継続を求めており、与党に示された案でも同様であった。2024年に改正された雇用保険でも昼間学生は適用対象外となっており、今後も除外が続くとみられる*5
 

*5短時間労働者ではない一般加入者(週の所定労働時間や月の所定労働日数が一般社員の3/4以上)では、昼間学生も対象である。将来的に週20時間以上が一般加入者の要件になった場合には、昼間学生への適用が広がる可能性ある。