どんなに介護や看護に貢献していたとしても、通常「相続人の子の嫁」に遺産相続権はありません。井上みさ子さん(仮名)も、そのうちの1人です。みさ子さんは義母への献身的な介護を続けていたものの、自己中心的な義姉に疲弊しているようで……。FPの山﨑裕佳子氏が具体的な事例をもとに「相続人の子の嫁」に起きがちな相続トラブルとその解決方法について解説します。
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「子の嫁」に遺産をのこしたい…義母がとった「生前対策」
どんなに義母の介護に貢献していたとしても、「子の嫁」であるみさ子さんは相続人にはなりません。今回の事例に当てはめると、義母の法定相続人は義姉ゆかりさん・夫友晴さんの2人だけです。
この理不尽とも思える状況に一筋の光があるとすれば、2019年に民法改正で施行された「特別寄与制度」です。
「特別寄与制度」とは?
特別寄与制度とは、相続人以外の親族(今回のケースではみさ子さん)が義母の療養や看護、介護等を無償で行った場合、相続人に対して金銭の支払いを請求することができるという制度です。
ただし、特別寄与者は遺産分割協議に参加することはできず、あくまで相続人に対して請求ができるとされているため、義姉のようにみさ子さんの貢献度を認めない相続人がいれば、話がまとまらないということも考えられます。
義姉のそんな性格を見越していた義母が取った手段が、「遺言書」と「生命保険」でした。
1.遺言書
一般的な遺言書は、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3つです。
生前に「預金はみさ子さんにあげるよ」と口頭で言っていたとしても、法的効力はありませんので、上記のいずれかの方法で書面で残すことが重要です。
2.生命保険の受取人を嫁にする
遺言書以外の方法で法定相続人以外に財産を分けたいときに活用できるのが「生命保険」です。受取人を財産を渡したい人に指定しておけば、確実に財産を渡すことができます。
ただし、「受取人は原則、一定の親族」としている生命保険会社もあるため、無条件に第三者を受取人に指定できるわけではないようです。生命保険会社により対応は異なりますので、事前に生保会社に相談することをおすすめします。
「嫁」を救うには、生前対策が不可欠
みさ子さんの長年の努力は、義母が行った遺言書と生命保険という生前対策により報われた形となりました。
ただし、遺言状に従えば、預金・不動産を含め、義母の残した遺産はすべて友晴さんが相続することになりますが、「姉さんの住む場所を取り上げるのも酷だし、自分は持ち家があるから」と、みさ子さんと相談のうえ実家はゆかりさんに相続してもらい、現預金を友晴さんが相続することで落ち着いたそうです。
昨今、義両親の介護を嫁が担うという風潮は時代遅れともいえるかもしれません。とはいえ、介護施設などへの入居には一定のお金がかかるため、実際には自宅で公的介護を利用しつつ、家族の誰かがサポートすることで高齢者の生活を支えるというケースが多くなります。
時代は変われど、家族の誰かが介護を担われなければならない状況下では「嫁」が犠牲になりやすいことを否定できない現実があるようです。
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表
