筆者が“パワハラ上司には絶対に屈しない”と心に誓っていた理由

それに、私が冷凍助手をしていたときによく思っていたのですが、このボースンは解剖が下手でした。力を入れすぎてマグロの頭に出刃包丁でざっくりと切れ目を入れてしまいます。全然ダメでしたし、他の船員もそう思っていたのでしょうが、ボースンなのであまり指摘できないし怒らせたらうるさいので、みんな黙って知らんぷりしていました。

冷凍助手は他の人が行った解剖の手直しや仕上げも行うのですが、ボースンの解剖を見るたびに「下手くそすぎて直せねーわ」と心の中でつぶやいていました。下手くそなのは仕方ないのですが、切れ目を入れられたらお手上げなので、頼むから100キロクラスは解剖するなよと思っていました。

人をいじめるのだけは一人前だな？　と内心少し見下して優越感に浸っていました。

私も前の暴力船などでさんざんな目に遭った※1ので、ボースンにいじめられているトシの気持ちはわかります。前の船で秀樹ちゃん※2の乱暴な言動に深く傷ついたこともあって、私は決してそういういじめをしないと心に誓っていました。

※1…筆者が前に乗った18喜龍丸ではボースンや冷凍長による暴力が習慣になっており、遠洋マグロ漁船の仕事に慣れていなかった筆者は4ヵ月もの航海の間パワハラを受け続けていた。

※2…筆者のいとこ。以前、筆者を18喜龍丸に誘ったが、仕事ができずいじめられていた筆者に対し裏で陰口を言っていた。喧嘩になった際、秀樹が言い放った「仕事のできないお前を連れてきたこっちまで恥ずかしい」という言葉にショックを受けた筆者は、「自分が知人を漁に連れていくことになったら絶対に見捨てない」と誓った。

「俺はトシが仕事できなくても何しても、絶対に見捨てない。帰るまでずっと変わらず俺の親友だ。だからいじめるヤツは許さないし、それがボースンだろうが船頭だろうが関係ねえ」

「せー、ありがとう。悪いね」