1月下旬から2月上旬にかけて、いわゆる「103万円の壁」にの撤廃について厚労省は与党に次期改革案を示しました。本稿では、ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏がパート労働者に対する厚生年金適用拡大と今後の展望について詳しく解説します。
パート労働者への厚生年金の適用は、2027年から徐々に再拡大へ (写真はイメージです/PIXTA)

2|年収の壁への対策:就労を抑制しない方向へ工夫

パート労働者への適用拡大では、いわゆる年収の壁を意識した就労抑制も論点になっている。

 

(1) 106万円の壁:新たな適用拡大の対象となる企業は、保険料の事業主負担割合を引上げ可能に

 

年収106万円は、前述した賃金要件である。厚生年金が適用されると、将来に厚生年金を受給できるものの、当面は厚生年金保険料の本人分や企業分の負担が生じるため、就労抑制の原因とされてきた。

 

審議会では、事業主が企業分の割合を上げて本人分を減額し、手取り収入の減少を抑えられる任意の時限特例が示された。しかし、大企業など余裕がある企業しか実施できないなどの批判が出たため、与党に示された案では、新たな適用拡大の対象企業だけが特例を利用できるなどの工夫が加えられた。手取りの減少は抑えられるが、企業負担は増えるため、どの程度の企業が利用するかは不透明である。

 

(2) 130万円の壁:106万円の壁と同様に、雇用契約の基本給で判定する方向へ

 

年収130万円は、公的年金で被扶養者を判定する基準である。厚生年金の対象となる事業所では厚生年金が優先適用されるが、5人未満の個人事業所など厚生年金の対象外となる事業所では、130万円を超えて働くと国民年金保険料を負担することになる。

 

現行制度では106万円の壁と違い残業代も判定に含まれるが、与党に示された案では106万円の壁と同様に雇用契約の基本給で判定する方向性が示された。残業代の分だけ就労抑制の緩和が見込まれる。