
調査結果~地方で大きく異なる生活者・消費者のSDGs浸透状況
地方別のサステナビリティ・キーワード認知度・理解度
ここまでは政府や地方自治体の視点から、地方創生SDGsの経緯や動向を論じた。地方創生SDGsの計画・実践には、地方自治体のイニシアティブが不可欠であるが、地方創生2.0でも強調されている通り、地方の「産学官金労言士」、つまり地方産業界、労働団体、教育機関、士業、そして特に、地域の生活者・消費者からの認知・理解と、パートナーシップに基づく協働も同様に欠かせない。
それでは、SDGsについて地方の生活者・消費者はどのように捉えているのだろうか。その点について、2024年8月にニッセイ基礎研究所が実施したサステナビリティに関するキーワードの認知度・理解度調査*の結果を地方別に分析し、結果を考察する。
*サステナビリティに関する消費者調査/(2024年調査)調査時期:2024年8月20日~23日/調査対象:全国20~74歳男女/調査手法:インターネット調査(株式会社マクロミルのモニターから令和2年国勢調査の性・年代構成比に合わせて抽出)/有効回答数:2,500。上記を八地方区分別の性別(2層)・年齢(20—30代、40-50代、60代以上の3層)の計6層の母集団構成比にウェイトバックして各数値を算出した。なお、理解率は認知しているワードに対する理解の度合いを示しているが、この集計処理のため理解率が認知率を上回っている項目もある。なお全体はウェイトバック前の数値をいれている。
この調査では、「サステナブルな社会を実現するキーワード」として44のワードについて、「聞いたことがあるか(認知)」と「内容まで理解しているか(理解)」を尋ね、それぞれの属性別の割合を認知率・理解率として算出した。今回は、全体的に高い認知率・理解率となった環境・エコロジー分野、社会問題・人権・多様性分野、健康・生き方分野のうち、認知率が10%以上の15ワードを分析対象とし、八地方区分で集計している。なお、キーワードの認知率や理解率は性別・年齢によって異なるため、地方区分別の性別・年代別の人口構成比を加味してウェイト集計している(数表4)。
社会問題・人権・多様性分野が高い「関東地方」、環境・エコロジー分野で高い「北海道」
調査結果をみると、関東地方では、社会問題・人権・多様性分野の「ダイバーシティ」(認知率42.1%、理解率22.9%)の認知・理解、健康・生き方分野の「ウェルビーイング」(同19.2%、同10.5%)の認知で、やや高い傾向が見られた。地方では、特に北海道と四国地方で全体的な認知度と理解度が高い傾向が見られた。
たとえば、北海道では、社会問題・人権・多様性分野の「ヤングケアラー」(認知率53.9%、理解率47.5%)が高い数値を示しており、同様に、環境・エコロジー分野で、「再生可能エネルギー」(認知率55.9%、理解率31.5%)、「カーボンニュートラル」(認知率48.0%、理解率24.4%)、「生物多様性」(認知率28.2%、理解率14.4%)で認知・理解率が高く、次いで「フェアトレード」(理解率25.2%)は、理解率で高い数値となっている。
サステナビリティ・キーワード全般の認知度・理解が高い「四国地方」
四国地方では、全体的に認知度・理解度が高い。分析対象となった15のワードのうち、認知率が特徴的に高いのは7ワード、理解率も7ワードと、それぞれ半数近くに達している。
具体的に見ていくと、環境・エコロジー分野では「再生可能エネルギー」(認知率57.4%、理解率51.8%)、「カーボンニュートラル」(認知率50.8%、理解率34.1%)、「生物多様性」(認知率32.1%、理解率32.2%)が認知と理解の両面で高い。さらに認知率に絞ると、「エシカル消費」(認知率22.3%、理解率11.6%)が高い。社会問題・人権・多様性分野では「ヤングケアラー」(認知率57.3%、理解率56.2%)、健康・生き方分野では「健康寿命」(認知率50.5%、理解率50.5%)や「地方創生」(認知率39.9%、理解率24.6%)が同様に高い傾向がみられる。
地方で異なる認知度・理解度の要因~地域経済・風土・生活価値観などが複合的に影響か
関東地方で高い「ダイバーシティ」「ウェルビーイング」は、過去の分析*1で全国的にも世帯年収との正の相関が確認されており、関東地方においてもその影響*2が表れていると考えられる。
*1 ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート「サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(1)-踊り場に立つサステナビリティの社会認知と、2030年への課題」(2024年12月20日)を参照
*2 総務省家計調査・貯蓄・負債編(2023年)/関東地方の二人以上の世帯の年間収入は平均709万円(全国平均642万円)を上回る。
北海道の「ヤングケアラー」の認知度の高さは、全国的にも高い北海道の高齢化比率*1と無関係ではないだろう。また、環境・エコロジー分野の高い認知度は、北海道が風力・太陽光・中小水力などの再生可能エネルギーの導入ポテンシャルが国内随一*2である点にも関係していると思われる。
*1 北海道の高齢化率(総人口に占める高齢者人口の割合)は、団塊ジュニア世代が65歳以上となる令和22年には39.7%に達すると推計されており、全国平均を上回る速さである。 出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」(2023年推計)
*2 北海道の太陽光発電は、全国1位(導入ポテンシャル量)、風力発電も全国1位(導入ポテンシャル量)となっている。出典:電力調査統計(経済産業省資源エネルギー庁)、出典:「再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)2023年4月修正版」(環境省)
本調査からは断言は難しいが、このような身近な社会変化や地域産業の特徴が、消費者のサステナビリティ・キーワードの認知度や理解度にポジティブな影響を及ぼしている可能性がある。
なお、四国地方の認知率・理解率の高さには、いくつかの要因が複合的に影響していると考えられる。たとえば、四国は、第1次・第2次産業の割合が全国平均よりも高く中小企業比率が高い*。地域と密着した経営を行う企業やその従業員が多いと思われ、地域経済の持続可能性に根差した経営・雇用環境が、キーワードの認知や理解にポジティブな影響を与えている可能性もあるだろう。
*中小企業庁「中小企業の企業数・事業所数」「経済センサス基礎調査・活動調査」「事業所・企業統計調査(総務省)」より
また、四国地方は、南海トラフ地震や急峻な地形、台風常襲地域など風水害の発生リスクが高い地域特性もあり、長期的視野での資産運用が意識される傾向があるとされる。家計の資産・負債を見ても資産残高は中位(全国8エリアで5位)ながら、負債を極力抑え(全国8エリアの中で最小)、定期性預貯金に重点を置く堅実な資産形成が特徴的である。
これまでの分析で、キーワードの認知や理解は金融資産額と正の相関を示すことが明らかになっているが、四国地方は、産業集積上の特徴や自然災害が身近な地域特性が住民のサステナブルな意識を高め、SDGs推進の動機づけに繋がっている可能性もあるだろう。
ただし、いずれ仮説の域を出ておらず、今後のさらなる詳細な分析が待たれる。