(※写真はイメージです/PIXTA)

賃貸併用住宅とは、1つの建物に自宅部分と賃貸部分を併せ持つ住宅のことで、一般的な住宅の大きさに比べて土地が大きい場合など、土地活用の一環として近年注目を集めています。賃貸部分には居住用の住宅だけでなく、店舗やオフィスも含みます。本コラムでは、賃貸併用住宅の概要や、メリット・デメリットを詳しく紹介します。賃貸併用住宅は、通常の賃貸物件にはないリスク・デメリットも多いため、しっかりと基本的な知識を確認しましょう。

「賃貸併用住宅はやめとけ」と言われる理由・デメリット

(画像:PIXTA)
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賃貸併用住宅にはさまざまなメリットがある一方、留意すべきデメリットもあります。以下からは、賃貸併用住宅が抱えるリスクやデメリットを9個紹介します。

 

・住宅ローンを利用できないことがある

・通常の賃貸物件よりも利回りが低い

・設計が難しい

・空室リスクがある

・入居者トラブルのリスクがある

・管理に時間をとられる

・売却・相続が難しい

・建物の建設費用が高額になる

・プライバシーの確保が難しい

 

住宅ローンを利用できないことがある

賃貸併用住宅を新築する際、住宅ローンを利用するためには、ほとんどの金融機関において「自宅部分の面積が建物全体の50%以上であること」が条件となっていることがあります。賃貸部分の面積が自宅部分を上回る場合には、投資用不動産とみなされ、アパートローンを利用することとなります。

 

住宅ローンとアパートローンとでは金利や返済期間が異なり、どちらを利用できるかで収益性に影響が及ぶため、建物の設計段階から金融機関へ相談し綿密な計画とシミュレーションが必要です。

 

通常の賃貸物件よりも利回りが低い

賃貸併用住宅は、自宅部分の面積分だけ家賃収入を得られないため、通常の賃貸物件と比較して利回りが低くなります。

 

例えば、購入価格8千万円の物件を、4世帯の賃貸物件とし、各部屋の家賃を10万円とする場合、「10万円×4世帯×12カ月」で年間の家賃収入は480万円となり、物件の利回りは6%となります。一方で、この建物の半分を自宅部分とし、2世帯の賃貸物件とした場合には、年間の家賃収入は240万円となり、利回りは3%となります。

 

 

設計が難しい

賃貸併用住宅では、建物設計段階において、建築プランに制約が生じます。

 

住宅ローンを利用する場合には自宅部分の面積を50%以上とする必要があること、および入居者とのプライバシーを確立する必要があることから、賃貸併用住宅の設計には専門的なノウハウが求められます。

 

そのうえで、出入り口や窓、各種生活設備など、両方のエリアを効率的かつ快適に配置するためには、通常の賃貸物件にはない専門的な設計技術が必要です。

 

これらの点から、設計を依頼する際には、賃貸併用住宅に関するノウハウがある設計事務所に依頼することをおすすめします。

 

空室リスクがある

賃貸物件を運用する以上、空室リスクは避けられない問題です。

 

特に賃貸併用住宅の場合、「オーナーが同じ建物に住んでいる」ことを敬遠する入居希望者も多いため、一般的な賃貸物件よりも空室リスクが高いといわれています。もっとも、「大家とコミュニケーションがとりやすい」として、賃貸併用住宅を好む入居者もいます。

 

いずれにせよ、空室リスクは収益性を大きく左右する要因となるため、立地条件や間取り、設備、賃料設定など、さまざまな要因を慎重に検討し、空室リスクを最小限に抑える戦略が必要となります。

 

入居者トラブルのリスクがある

通常の賃貸物件では、オーナーは離れた場所に居住しており、入居者トラブル等の解決には管理会社が対応することが一般的です。

 

しかし賃貸併用住宅では、オーナーが同じ建物に入居していることから、入居者トラブルの解決やクレーム対応について、オーナーに直接連絡がくることがあります。

また、騒音問題や生活習慣の違いなど、オーナー自身がトラブルの被害者になる可能性もあります。

 

このようなリスクを避けるためには、通常の賃貸物件よりも入念な入居者選定とルール設定、そして柔軟かつ冷静な対応力が求められます。

 

管理に時間をとられる

賃貸併用住宅のうち、特に戸数が少ない住宅では、不動産オーナー自身で建物の管理業務を行うことが一般的です。

 

自主管理物件とすることで、管理費用が生じない分だけ収益性を高められる反面、入居者対応は24時間発生する可能性があり、清掃やメンテナンスには多大な時間と労力が必要となります。そのため、副業や資産運用の目的で賃貸併用住宅を管理する場合には、本業の時間を圧迫され、管理業務自体もないがしろになってしまう可能性があります。

 

建物の美観は入居者の満足度に直結するため、状況に応じて専門の管理会社への委託も検討しましょう。

 

売却・相続が難しい

賃貸併用住宅は、住宅としても賃貸物件としても中途半端な物件となるため、売却が困難な傾向にあります。

また相続に際しても、すでに相続人が別の場所に住んでいる場合には自宅部分が不要であり、遺産分割の障壁となる可能性があります。

 

そのため賃貸併用住宅を建てる際には、自宅部分をアパート部分に転用しやすい設計としておくなど、将来的な柔軟性を考慮した設計とするようにしましょう。

 

建物の建設費用が高額になる

賃貸併用住宅は、賃貸部分の分だけ建設費用が通常の住宅よりも高額となります。

 

特に賃貸部分の戸数が多い場合には、ユニットバスやユニットキッチンなどの設備費用がかかり、定期的な付け替え・メンテナンスのコストもかかります。

また、プライバシーへの配慮など、賃貸併用住宅ならではの特殊設計とすることで、建物の設計費用も高額となります。

 

このように、賃貸併用住宅は初期費用が高額となる傾向にあるため、高額な初期投資を正当化できるだけの収益性が見込めるかどうか、綿密に計算することが重要です。

 

プライバシーの確保が難しい

賃貸併用住宅では、オーナーと入居者、または入居者同士のプライバシー確保が大きな課題です。プライバシーと快適性を確保することは、入居者の満足を高め、長期的な入居につながる重要な要素となります。

 

この問題を軽減するためには、設計段階から綿密な配慮が必要です。例えば防音壁の設置や、完全に分離された出入り口の設置、導線の工夫など、複数の施策を組み合わせるようにしましょう。

 

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