新卒でドラッグストアに就職し、淡々と働いていた大辻さん(仮名・29歳)は、夜中点けたテレビに映るアイドルをみて、人生が変わりました……。ルポライターである増田明利氏の著書『今日、借金を背負った 借金で人生が狂った11人の物語』(彩図社)より、人生の一部を“推し活”にささげた“とある男性”の末路を紹介します。

「自分が助けてあげなくては」と思っちゃうんです…“推し活”に人生をささげた月収26万円・29歳サラリーマンの末路【推し活ビジネスの実態】
アイドルにハマって4年目…大辻さんが覚えた「違和感」
こうやっておよそ3年間をアイドル命、アイドルが生活の中心で過ごしてきたが4年目になる頃から少しずつ違和感が出てきた。
「AKBのトップチームにいた子でも卒業したらあまり活躍している姿を見なくなる。大人が敷いたレールから外れたら駄目なのかなと思いました」
アイドルをやりながらしっかり大学にも通い、アイドルを卒業したらテレビ局にアナウンサーとして就職したという子もいた。
「何だ、そりゃって感じですよね。アイドル活動は自分が成り上がっていくための手段だったのかと思うと虚しかった。応援した自分は何だったのかと思った」
親しくなったファン仲間も時間と共に変わっていった。
「彼女ができた、アイドルはもう卒業。転職した新しい仕事がそれなりに面白い、アイドルに時間を割く余裕がなくなった。推しメンが卒業したので自分も卒業する。何だか飽きちゃった。こんな感じで他界していきましたよ」
応援していたマイナーのアイドルグループもメンバーの入れ替えがあり、前より夢中になれなくなった。
「創成期からの子も、一般社会に戻って普通の女性として過ごすことにしましたって引退しちゃったんです。これで自分の熱も一気に引いた」
2018年のAKB総選挙で指原莉乃が3連覇を達成したのを見届け、アイドル応援に一区切りつけたということだ。
「熱が冷めると今までやってきたことが急にくだらないことに思えちゃって。握手会は握手券を買わなければならないんですが1枚1,600円もした。ほんの数秒のために1,600円は高いな。日高屋に行ったらラーメンが4杯食べられるじゃないかって、急に現実的なことばかり頭に浮かんできましたね」
中古で売ると元値の「20分の1」…大量に購入したCDの“後始末”
大量に購入したCDの処分にも困った。
「リサイクルショップや中古品買取り店に持ち込んだのですが、元値の20分の1にしかならなかった。1,550円のものが80円だもの。持っていく時間と労力と交通費を考えたら捨てた方がいいでしょ。燃えないゴミの日にアパート周辺の複数の集積所に20枚ずつ置いてきましたけど、全部なくなるまで1ヵ月もかかった」
コンサート会場限定販売のグッズ類もすべて売り払ったが、これも買ったときの10分の1から良くて5分の1ぐらいでしか売れなかった。
「マイナーアイドルの写真集やDVDはレア物なので少しは高く売れるかと期待していたのですが、査定はたったの250円でしたね。CDなんて50円だもの、嫌になったよ」
何度も買い取り業者のところへ持っていくのが面倒になり、出勤するときにアパート前の歩道に「ご自由にお持ちください」と張り紙をして段ボール箱に入れておいたが、帰宅したとき誰かが持っていったのはほんの数枚、ほとんどが手付かずで残っていた。
「何だよ、お前ら。全然駄目じゃん」と怒りが込み上げてきた。