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人生会議(ACP)の進め方
それでは、ACPは具体的にどのように行われるのだろうか。厚生労働省のホームページ4に記載された内容を参考にまとめると、主に以下の3ステップの段取りにて行われる。
そして、病状や症状が変化した時、または定期的に考えを整理し直して、何度もSTEP1から3までを繰り返し行い、その結果をノート等に書き留めて、いざという時に医療・介護従事者と情報を共有するための記録として残すことが大切としている。
現在、全国の自治体でも、それぞれ地域の実状に応じて人生会議(ACP)の普及に取り組んでいるので、是非、お住まいの自治体のホームページを確認することをお勧めしたい5([図表6])。
そこで、疑問になるのが、ACPをいつから始めるべきか、という点だ。これに対して、日本老年医学会6では、「人生の最終段階を見据え、がんか非がん疾患かを問わず、通院あるいは入院にて医療を受けている本人はその医療機関においてACPを開始することが望ましい。また、医療を受けていない高齢者においても、要介護認定を受ける頃までにはACPを開始することが望ましい」としている。
いずれにしても、健康な状態である段階から、先ずは自身の生き方の価値観について整理することを始めてみることが良いだろう。そのなかで、医療・ケアだけではなく、財産管理も含めて誰が自身の生き方をサポートしてくれるのか、を整理する機会にもなるだろう。
4 厚生労働省ホームページ 「人生会議」してみませんか
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html
5 豊田市 人生会議ホームページhttps://www.city.toyota.aichi.jp/kurashi/kenkou/iryou/1045662.html
6 日本老年医学会「ACP推進に関する提言」2019年
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/press_seminar/pdf/ACP_proposal.pdf
人生会議(ACP)普及にあたっての課題
それでは、今後、ACPを普及させていくには、どのような課題があるだろうか。
当然のことながら、本人及び家族等のACPに対する理解が進むことが原則であるが、より重要なことは、ACPにおける丁寧なプロセスを支える医療・介護専門職の態勢において、いかに質と量の両面において確保することができるかであろう。人生の最終段階における医療についての対話は、非常に繊細なものであり、本人が真に望む医療・ケアを対話のなかで引き出すには、これら専門職との信頼関係のうえに初めて成り立つ。
たとえば、「病院で亡くなりたい」という本人の発言があった場合でも、単に医療サービスが得られるからではなく、家族に迷惑をかけたくないという、思いからの発言である可能性もある。ACPにおいては、真に本人の意思(希望)がどこにあるかを読み取ることが大切だ。このような本人の真意を引き出しながら、医療・介護チームと繰り返し擦り合わせをすることは、追加の負担になることは間違いない。
さらにACPを行うスキルという観点においても、かかりつけ医については、医療技術に加えて、今以上に全人格的に患者と向き合うことが求められ、また人材不足が課題となっている介護専門職にとってもACPを実践する時間と新たなスキルが必要となる。まさに、地域包括ケアシステムにおける医療・介護の多職種連携の真価が問われるともいえるだろう。
加えて、ACPの結果を誰がどのように引き継いでいくのか、という点も気になるところだ。本人の健康状態や時間の経過により、担当する医師、介護担当者、または信頼する家族(あてにしていた配偶者が先に亡くなってしまう等)も変わっていくかもしれない。その場合に、積み上げてきたACPの情報が、救急搬送などで予期せぬ場所に行った場合でも、正しく引き継がれる仕組みを整備する必要もあるだろう。
お互いにACPへの意識を
仮にあなたに高齢の両親がいて、ACPに関する項目を確認する場合、改まって「人生会議を始めます」という手続きを踏むのは、親子双方にとっても心理的なハードルは高いだろう。しかし、インフォーマルな会話のなかで、今までの親の生き方、価値観等を踏まえて、さりげなく人生の最終段階に向けた医療・介護の希望を確認していくことはできるだろう。一方、親側の意識としても、自ら主体的にACP項目について、配偶者及び子どもに伝えていく努力も必要だろう。
人生最期の医療・介護に思いを馳せることは、一見すると気の進む作業ではないが、自身の思いを家族に告げ、そして医療・介護従事者と予め意見を擦り合わせることができるとするならば、ACPというそのプロセスは本人及び家族にとっても、プラスの効果をもたらすに違いない。もちろん、本人がACPを望んでいない場合は、無理に行う必要はない。
人の死を通じて引き継がれるのは、金銭などの財産だけではない。死を迎え、本人の最期の瞬間を曝すことにより、遺された者はその生きざまを記憶として引き継ぐことになる。残される家族に対して、財産だけでなく前向きな生き様をメッセージとして、人生会議(ACP)を通じて残せたら良いのではないか。

