子どもの健康寿命をのばすのは環境次第

個体寿命(いわゆる寿命)と健康寿命(健康で自立した生活ができる寿命)との差を「不健康な期間」といいます。男性で約9年、女性で約12年あり、その期間は日常生活に制限があるため、場合により支援や介護を受ける期間になります。

急にこの状態に陥るわけではなく、その前段階が全身の虚弱する「フレイル」といわれる状態です。そしてフレイルの予兆はお口の劣えから始まり、この状態がいわゆる「オーラルフレイル」です。つまり健康な状態の次に来るのがオーラルフレイルなので、早期にこの段階で食い止めれば、フレイルや介護状態に進行する危険性を下げることができます。

オーラルフレイルは些細なお口の衰えを表すキャッチフレーズであり、実はその状態により口腔機能が衰える「口腔機能低下症」という病気である場合があります。

病気ですから治療が必要なのですが、治療をせずに放置すると2年後にはフレイルや介護状態になっているリスクが(オーラルフレイルでない人に比べ)2.4倍になります。さらに2年後には、高齢者死因第3位の「誤嚥性肺炎」を含めて総死亡率リスクが2.1倍になることが知られています。つまり口腔機能低下症は命を危険に晒す可能性がある病気なのです。

全国に先駆けてオーラルフレイル事業に取り組んでいる志木市のデータによると、口腔機能が低下している市民を対象に測定会・指導会・講演会を行って口腔機能対策を図っても、93%の人は「自分は口腔機能(特に飲み込み機能)に悩みはない」と回答しています。このことから口腔機能の衰えは命を危険に晒す可能性を含んでいるにもかかわらず、自覚するのはとても難しいことが浮き彫りになっています。

日本老年歯科医学会の調査によると、口腔機能が低下している人の割合は40歳代36%、50歳代48%、60歳代62%、70歳代83%。若い世代からすでに口腔機能は低下し、50歳代では約半数が低下しています。この原因は、小児期に口腔機能が十分に発達しなかったことによって成人になっても機能は未熟のままで推移し、衰えが始まると早期に口腔機能に兆候が現れるからです。

これらのことを考慮すると、小児期の口腔機能は非常に重要で、人生後半の健康寿命にも影響を与える可能性があります。子どもの健康を考えるなら、生涯に影響を与える口腔機能について最優先で取り組んでください。

既述しましたが、本人や周りの人が口腔機能の異常に気付くことは難しいので、歯科医院で専門の検査を受けて状態を確認することをお勧めします。検査は保険が使え、検査内容も痛みやダメージを伴わず、短時間でできるので、時間の取れる春休みなどに歯科医院を受診してみてください。

宮本日出
幸町歯科口腔外科医院・院長
歯科医師・歯学博士