子どものときから成績がよく、都内の上位私大に難なく合格した野坂さん(仮名)。しかし、現在の月収は約24万円(手取り20万円)、想定年収は300万円に届くかどうかというところ……そんな野坂さんは、自らの選択を「深く後悔している」といいます。いったいなにがあったのか、ルポライターである増田明利氏の著書『今日、借金を背負った 借金で人生が狂った11人の物語』(彩図社)から紹介します。

後悔しています…都内上位私大卒も「手取り月収20万円」新潟出身・板橋在住29歳サラリーマンの“悲痛な嘆き”【ルポ】
奨学金を「繰り上げ返済」しまくっていたワケ
毎月の返済とは別に夏の賞与が出た翌月の7月、冬の賞与が出た翌月の1月にはそれぞれ6ヵ月分を繰り上げて返済。1年間に24回分を返済していた。
「賞与の手取りは25~27万円ぐらいだったので手元には10万円ぐらいしか残りませんでした。これは分割して月々の生活費の足しにしていました。なので蓄えはあまり増えませんでした」
こうまでして返済を急いだのは、当時付き合っていたガールフレンドにいろいろ言われたから。
「それは借金でしょ、どうしてそんなに借りちゃったの、いつになったら返し終えるのって」
東京生まれの東京育ちで、付属高校から持ち上がりで入学したガールフレンドには、地方出身者が東京の私大に通うのがどれほど大変なことなのか分からなかった。
「親に半分くらい出してもらったらとか、祖父母に援助してもらえばなんて言いだして。親に余裕があれば最初から奨学金は受けなかったのに、そういう事情を理解できないんですよ。面倒くさくなってその人とは別れました」
その後も可能な限り繰り上げ返済をして17年8月迄に130回分を返済。「もう半分以上返した」と安堵したが、体調を壊して返済計画が狂ってしまった。
「月100時間」の残業がたたり、出社不能に…
「年々残業が増えてゆき、月90~100時間も時間外勤務するようになりました。どんなに時間外勤務しても固定残業代制だから毎月60~70時間もタダ働き。成果主義も取り入れられたのでストレスも溜まって。これでは身体がおかしくなるのは当然ですよね」
身体の不調は耳鳴り、偏頭痛から始まって慢性的な下痢、睡眠障害も現れた。食欲も減退し朝は缶コーヒーだけ。昼も夜も以前の半分くらいの量を食べるのがやっとになってしまった。
「騙し騙しで2ヵ月間我慢したのですが、ある日を境に出社することができなくなりまして。朝起き出して布団から出たのはいいものの洗面台の前で身体が硬直してしまいました」
その日は扁桃腺を腫らして熱が出たと嘘をついて病欠。ところが翌日も出勤しようとすると動悸がして冷汗が出てきた。
「ああ、やっちゃったなと思った。体調がおかしくなってからネットや図書館にある家庭の医学みたいなもので調べていたんです。自分の症状は心身症とかうつ病に似ていたのでヤバイなと心配していた。その通りになってしまった」
住んでいる地域で一番大きな総合病院へ行き、最初は心療内科で受診。その後、精神神経科の医師に診てもらうと軽度のうつ病と診断された。過労が主たる原因だろうということだった。
「やっぱりという感じでしたね。原因が分かってすっきりした。なってしまったものはしょうがないですから」
会社には診断書を提出して休職することになったが、上司の苦々しそうな顔つきは今でも忘れられない。