筆者「もう一度マグロ漁船に乗る」→父親の反応は?

こうして次の航海が決まり、私はオヤジに説明しました。

「父ちゃん、俺、英雄さんと安広くんとマグロ漁船行ってくるわ」

「うん、いいんじゃないか!」

オヤジは笑いながら満足げにそう言ってくれました。この頃からオヤジは、私にまったく怒らなくなりました。

ボボボボボボ……とマフラー音を鳴らしながら、安広くんは車高の低いハコスカで私を家まで迎えに来ました。私の家の2階の洋間は綺麗な海が見えるくらい見晴らしがよく、近くを走ってくる車は丸見えでした。私はハコスカを停めた近くの窓へと向かい、安広くんは車の中から話しかけてきました。

「せー、ひでのところに行くから来いよ」

「はーい、待ってて!」

この頃には安広くんと英雄さんとはすっかり仲良くなり、3人で遊ぶことが多くなっていました。

そして車で港まで向かい、船と船頭さんを紹介してもらいました。秋洋丸という船で、前回の初航海で乗った長福丸とだいたい同じ大きさの近海マグロ漁船です。大きさは60トン、定員は十数名くらいです。そして今回もまた1ヵ月の航海ということでした。

今回の船頭さんは40代くらいと若く、笑顔の絶えないとっつきやすそうな感じの明るい人でした。

「おう! ひでの後輩かい。よろしくな!」

快く受け入れてもらい、一発で採用が決まりました。素直に嬉しかったです。

マグロ漁船は1人で行くのは本当にキツいので、誰かしら仲間と一緒にいられたらそれに越したことはないです。しかも英雄さんと安広くんの2人がいるなら、楽しめるかもしれない。そう思って期待に胸を膨らませていました。

英雄さんはサングラスをかけて黒のツナギを着て、とても堅気には見えない格好で港を歩いていました。

「せー、よかったな、採用になって! 一緒に行くの楽しみだわ」

豪快に笑って、おっかない顔をほころばせていました。
 

菊地 誠壱
元マグロ漁船員/Youtuber